死地
「待てえい、竜人!」
竜人の言葉を遮ったのはジークフリート14世アドルフだった。彼は竜人に対して、ライバル心をむき出しにしている様に見える。
その右手には大剣バルムンクが既に握られていた。
「お前、ちょいと出しゃばりすぎじゃあないか?聞けば首都でも大暴れしたらしいではないか。」
「ああ、そうだが。」
それがどうした、と言わんばかりに竜人が返す。ドラゴンと人間のハーフ。生まれながらにして竜の血を宿す半人半魔。彼にとって、あの首都での戦いは大暴れの内に入らない。
むしろ正体不明の影を前に退却した負の実績もある。
そのことを蒸し返されて、竜人は半ば苛立っていた。
「お前ら人間じゃあ、この吹雪は無理だろう。あの勇者サマの力なしだと外に出た瞬間氷漬けだ。」
「ほう…」
アドルフの眼に殺気が宿る。
アドルフはずいと竜人の前に立ちはだかる。
「へっ、どれだけ強がろうと所詮ヒトだろうが。ここは俺に任せて茶でも飲んでるんだな。」
竜人が口から軽く炎を吐く。ヒトではできない芸当。それがこの男にはいとも容易くできてしまう。歴戦の勇者と言えど、血は、種族の壁は覆せない。
「貴様…何か勘違いしておるな。」
「何だと?」
アドルフがバルムンクを背中の鞘に収める。
それが合図の様に次の瞬間目を疑う光景が広がった。
アドルフの頭が炸裂した。
一瞬の出来事だった。
背後にいたギーゼラがアドルフの顔を爆破したのだ。
爆破魔法をあろうことか自分の仲間に向けた。
爆発といっても規模は大きくない。ただ人間の頭を吹き飛ばすのは容易な威力には違いない。
しかもギーゼラは笑っている。仲間の顔を爆破して笑っていたのだ。
その場が凍りつく。飛空挺の揺れなど最早気にならないほどに。
「お前ら…正気か⁉︎」
竜人が思わずたじろぐ。
アドルフは直立不動のままだが生きてはいないだろう。顔は爆煙で見えないが、それでも致命傷なのは明らかだ。
「そんなに戦いたかったのか⁉︎だったらそう言えばいいだろう⁉︎仲間の頭を爆発するなんて…そこの女‼︎一体なに考えてやがる!
お前も頭がぶっ飛んでるぜ!」
まくし立てる竜人。だがギーゼラはくすくすと笑うばかりだ。そしておかしいのは、その笑顔が、狂気に歪んだものではないからだった。何故こんな顔ができるのか。
「ふふふ、亜人種って単純なのね。からかいがいがあるわ。」
「何…?」
竜人がアドルフの方に向き直る。煙が徐々に晴れる。
「ば、馬鹿な…今のは直撃だったはずだぞ…」
そこには傷一つないアドルフの姿があった。
「いやはやそこまで驚かれるとやった甲斐があるというものよ。」
「てめえ、そんなナリをして魔術師の類か?」
「ガハハハハハハハ‼︎よくぞ聞いてくれた!我輩は竜の血を浴びて“不死身の肉体”を手に入れたのだ!」