対話3
―やっとこちらを向いてくれたね。ダンテ将軍―
目の前の影からはあの声が聞こえる。人の形を象った影。それがあの耳障りな声の主だった。
「貴様、この建物にどうやって侵入した?まさかアーサー王が仰っていたあの影か?」
ダンテの脳裏にアーサーから聞いた話が鮮明に蘇る。魔王の思念体。アヴァロン以外の攻撃が通用しない、討伐不可能の存在。だが不思議なことにダンテは恐怖を感じていなかった。目の前のモノは確かに普通の者ではないが、他の者が言うような戦意の喪失や恐怖心は湧いてこなかった。
―そんなに怖い顔をしないでおくれ。私はただ話がしたいだけなんだ。―
暗い部屋に長いこといると目が慣れる。ダンテにはその影の動きがわかった。影は自分の輪郭を象っていた。
「貴様…!」
―君が言っていたじゃないか。この戦いが終わっても自分はただの将軍位にとどまるのかと。私はね、その疑問に答えてあげられる。―
ダンテは右手を素早く影にかざした。そして、
「消え失せろ!」
一瞬部屋が閃光に包まれる。聖なる光。闇属性のものならば一瞬で蒸発する光の攻撃。
部屋はまたすぐに元の暗さを取り戻した。
―アーサー王から聞いていないのかな。そんな攻撃、通用しない。―
影は消えていなかった。ただ椅子に腰かけ、ダンテを見据えるように構えている。
「貴様やはり…魔王の思念体…!結界を消すというのも本当のようだな。」
―今の君はひどく興奮している。まあ座りなさい。―
影がダンテを諭す。肩で息を切っていたダンテは影の言われるまま椅子に掛けた。
ただまだ警戒は解いていない。相手がどんな手を使うかまだわからないのだから。
「いいでしょう、話ならお聞きします。」
ダンテはいくらか冷静さを取り戻した。警戒は常に怠らずに。それに今の閃光で他の者もこの部屋で何かが起こっていることに、気づいているはずだった。
―やっと話を聞いてくれるか。嬉しいね。そうだな、まずは自己紹介からだ。私は君たちが魔王と呼ぶ存在だ。―
「それなら聞いています。あなたは魔王の思念体だと。」
―いいや違うな。アーサーは一つだけ勘違いをしている。―
「?」
―私が魔王本体だ。―
「何を…言っているのです?」
―信じられないのも無理はない。私はコキュートスにある居城の最奥部、その玉座に座して勇者達を待ちかまえている。君たちはそう考えているんだろ?―
「………」
―まあいい、この出会いも何かの縁だ。魔王討伐、勇者の血筋、君はこのあたりにいくつか疑問を持っているようだし、それについて教えてあげよう。―
「魔物の親玉だけあって、言葉で相手を揺さぶろうともするのですね。だが残念です。私にそのような手段は通用しない。」
―ははは、まあこれから話すことは作り話だと思って聞いてくれて構わない。なぜこの世界で魔王が何度も復活するのか。なぜ勇者たちは、異世界の勇者になりたがるのか。そして血筋こそ勇者に最も必要なものなのか。この忌まわしき運命の螺旋は誰が作り上げたものなのか、全て教えよう。―