対話2
「敵本拠地の見取り図はないのですか?まさかあの吹雪の下、魔王が座して待っているわけではありますまい。」
「そうだ。あのコキュートスの中に魔王の居城がある。既に魔術師達に透視させて大まかな見取り図は作ってある。後ほど全員に渡すつもりであるし、テレパシーで脳内に刷り込んでもいい。」
「テレパシーなど結構。私の思考に他者が入り込むなど言語道断です。」
ダンテはそれだけ聞くと講堂を後にした。ただアーサー王にのみ目配せし、それ以外の者は眼中にないように見向きもしなかった。
「私は出発までコンディションを整えます。どこぞの戦闘狂のように、作戦が頭に入っていないなどと言うわけにもいかないでしょう?では」
ダンテの頭には怒りしかない。選ばれたものでありながら、世界の命運を賭けた戦いの直前であの態度。誰よりも勇者に対して特別な考えを持つダンテはアドルフの態度があまりにも目に余った。
「あんな人間が、勇者などと…許せん。」
ダンテは一人控えの間に戻った。外は相変わらず暗い。もう何か月も陽の光を見ていない。魔王を倒せば、また青空が戻る。そうすればこの心に射した影も消える、ダンテはそう思うしかなかった。あのアドルフを見ていると、自分の全てを否定されたようでいてもたってもいられないのだ。
控えの間の椅子に深く腰掛け、ダンテは天井を仰ぐ。
「私はこの戦いが終わっても…王の、アーサー王の側近、一将軍にすぎないのか…」
ふいに口から言葉が出る。それは彼には珍しい弱音のようなものだ。
「この部屋はまるで私の心そのものだな。暗い影の射す、がらんどうの空間。」
―果たしてそうかな―
「誰だ!?」
ふいに頭に直接響くかのような声が聞こえ、ダンテは椅子から飛び起きた。
心労からくる幻聴か、あのふざけた勇者のいたずらか、魔物が機関に入り込んだか、いずれにしても、今の声はダンテの神経を煩わせる異物に他ならない。
部屋を見渡す。暗い部屋だ。この暗さがいけないのだ。灯りをつけて、目に見えるものだけでも多少はまともにしなければならない。今の自分は長い戦で疲弊しているのだ。
ダンテは部屋の明かりをつけようとした。が、不思議なことに灯りはつかない。
「おかしい。故障しているのか。」
―私はこの暗さが心地よい。―
「!?」
また声が聞こえた。ざわざわする。落ち着かない。この声の主は一体何なのか。得体のしれない不安がダンテを襲う。ふと目の前をみると自分の向かいにある椅子に誰かいるようだった。誰か、というのは姿がはっきりしないからだ。目を凝らしてもはっきりとは見えない。そう、それは影だった。暗くてよく見えないが、影が椅子に腰かけているのだ。