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勇者たちの鎮魂歌  作者: 砂場遊美
第3章魔王討伐編(過去)
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コキュートス5

ゆえにダンテは歪な劣等感を抱いていた。勇者の血がないものは誰も救えないと。正統な血筋のないものには、重要な局面は任せられないと。彼はその劣等感を払拭するために血の滲む努力を続けてきた。そして自分と同じく、勇者の血のない者には厳しく接した。同族嫌悪だ。生まれ持ったセンスと飽くなき向上心、妥協を許さない精神、その魂はまさしく勇者そのものだ。たった一つ、血統というどれだけ努力しても手に入らないものが何よりも重要なのが、ダンテにとってあまりにも残酷な事実だったが。


「いえ、私が不在ではログレスの士気に関わると思いまして。」


ダンテは淡々と言い放つ。


『そういうことであったか。いやはやそれは考えていなかったな。まあ、兵力が不足すると言うことはない。では転送魔法の準備が出来次第、また連絡する。』


ホログラムが消える。部屋には彼一人。ダンテの心と同様、がらんどうの部屋。


―あなたには、あなたにしかできないことがある。-


たしかこの戦いで、バート将軍に言われたことだ。


「私にしかできないことなど…私は所詮…王の…」


マグナブール王国―


「戦いがこの世からなくなったら…我輩は鬱になっちまうな。」


頬杖をつきながら誰もいない荒野を眺める男、ジークフリート14世アドルフ。

彼は西部戦線で武功をあげたが、その後首都へ招集されることはなく、マグナブールとコンデシャロルで残党退治ばかりしていた。

戦闘狂の彼にとってこの生活は退屈極まりない。

もうしばらくの間、アドルフはこの様子だった。


「アドルフ殿、ここ最近ずっとその様子かね。」


背後から声をかけるのは錬金術師のハルトマン。今回の戦いでは貴重なデータとやらが取れたらしく、いやに上機嫌だ。

あぐらをかきながら頬杖を突くアドルフの隣にハルトマンが座る。


「私が言えたことではないが…目が死んでいるなアドルフ殿。」


「ああ、そうさな。」


アドルフは抜け殻のようだ。


「ククク、アドルフ殿らしくない。そんなアドルフ殿に嬉しい知らせを持ってきた。」


アドルフはハルトマンの言うことなど聞いていない。耳には入っているが右から左への状態だった。


「単刀直入に言おう。我々がコキュートス侵攻作戦のパーティに選ばれた。」


「…………」


風の音だけが聞こえる。アドルフは何も言わない。普段の彼なら飛び跳ねて喜ぶはずだ。


「あのアーサーやダンテ、さらに亜人種とも共闘できるそうだ。」


「…………」


アドルフは黙ったままだ。ハルトマンもただ黙って座っている。


「………ハハハハハハ、ハハハハハハハハハ、ガハハハハハハハハ!!!」


突然アドルフが立ち上がる。その雰囲気は抜け殻だった先ほどとは打って変わって生命力ややる気に満ち溢れていた。そのあまりの変貌ぶりにハルトマンも少し驚く。


「アドルフ殿、いやはや立ち直りがはや」


「して、戦いはいつからだ!?魔王本体と戦うのか!?亜人種とは誰だ!?他に参加する者は!?くう~血が滾るぞ~、やはり我輩は戦場に身を置く武人であらねばなるまい!バルムンクも久方ぶりにうなりを上げる時か!!」


ハルトマンはこの時ばかりはアドルフに言わなければよかったのかと少し後悔した。


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