コキュートス4
「あのお方はああ見えて小心者なのだ。それを悟られまいと逆に圧を発している。」
「今のデニス殿みたいに?」
「なっ、何を言うかこのチビ!」
デニスがマキシに食ってかかる。図星だったようだ。
「機関の魔術師連中を総動員させ、コキュートス内部を透視させる。大まかな道のりをはっきりさせなければ、侵攻など不可能だ。これから、透視作業を夜通し行うとして…」
「2日後に飛空艇でコキュートスへ侵攻するなら、明日中にはもう透視作業は終わらせておきたいね。それとここにいない、ジークフリートの一派と、ログレスのダンテ殿も招集しなきゃ。大がかりな転送魔法の準備を急がせるよ。」
「首都防衛に関しては私にお任せあれ。すでに近郊の各都市とは連携が取れておりますゆえ。」
ジェラルドにとって大司教などよりもこの2人の方がはるかに信用できる人物だ。2人はジェラルドを見据え、指示を待っている。
「デニス、マキシ、今回の作戦はお前たちなしでは成功できない。私も全力を尽くす。頼んだぞ。」
ログレス王国―
「私が…コキュートス侵攻作戦の一員に…ですか。」
ダンテは驚きを隠せずにいる。事実その表情はやや強張っていた。今回の戦いではログレスの防衛で指揮を執り、卓越した戦運びで被害を最小限に抑えた程の腕前だ。だが彼自身自分が敵本拠地への侵攻作戦の一員に選ばれるとは思ってもいないことだった。
機関の使いはホログラムでダンテに語りかける。
『貴公の実力は既に聞き及んでいる。コキュートス侵攻に際して、アーサー王やシモーヌ殿、ギルバート殿と共に参戦してもらう算段だ。』
「ですが、そうするとログレスは?誰がこの国を守るのですか?」
『心配には及ばん。機関の使いをログレスに派遣する。首都防衛用のゴーレムや結界の展開に長けた魔術師達だ。それと追って説明することではあるが…今回の侵攻戦が事実上この戦いの最終局面となる。コキュートス侵攻は少数精鋭で行い、残る全ての戦力を首都近辺へ集中させる。
「つまり…敵本拠地を落とすか、首都が先に陥落するか、それ以外はあまり考慮しないと仰るのですか。」
『痛いところを突く物言いだな。だが勇者機関の敗北はすなわち人類の敗北だ。それは貴公も理解しているはずなのでは?』
「無論です。」
『なにこの作戦での懸念事項は、迅速な魔王の討伐によって全て解決できるものだ。聖騎士、竜騎士、武闘家、僧侶、暗殺者、魔術師など…貴公は20以上のクラスをマスターした戦いの天才ではないか。何を恐れることがある?』
ダンテはこと戦闘においてはずば抜けたセンスを持っていた。既に20以上のクラスをマスターしており、その実力は勇者に匹敵する。そんな彼に唯一足りないもの、それは血統だった。勇者と呼ばれるものは皆、受け継がれてきた血筋がある。この世界では遥か古代より、勇者と呼ばれるものは何よりも血筋が重要視されてきた。
精霊や神託の力、それは一代で完成し、築けるものではない。
たとえどれほどの戦闘能力があろうと、どれだけのクラスをマスターしようと、血筋がなければ勇者にはなれない。それがこの世界の鉄の掟だった。