コキュートス2
「さてジェラルド殿…今回我々が侵攻するのは遥か北にある絶対零度の地域、コキュートス。」
「極寒の場所であり、常に吹雪が吹き荒れている。コキュートスの吹雪は特殊だ。あの吹雪を浴びたなら、即座に氷の彫像になってしまうだろう。」
「アーサー17世のアヴァロンを使う他ないでしょうな。」
「懸念事項はあの影だ。アーサーをコキュートスへ派遣したとして、その隙に影が侵攻して、首都が陥落しては意味がない。」
暗い講堂に2人の会話が響く。
「心配ないんじゃないかな。あの影はどうやらアーサーにご執心のようだしね。」
そこへもう1人、勇者機関で功績を挙げた者が現れた。
小柄で人形のように無表情な男、
「マキシ…お前もいたのか。」
思わずデニスが驚く。それもそのはず、この講堂には2人しかいなかった。突然現れたマキシに驚かないはずがない。
「僕はもともと暗殺者の素養がある。気配を断つことくらい朝飯前さ。」
「マキシ…お前も今回の作戦指揮を任されたのか?」
ジェラルドが尋ねる。
「そうだよ。ま、気負わずにやろうよ。空回りが一番危ない。」
この男の落ち着き様は異常という他ない。常に冷静沈着。時にそれは頼りになり、時にその人間らしからぬ様子には恐怖を抱く。
だがこの非常時において、この冷静さは絶対必要だった。
「僕はコキュートスに最大戦力を割き、短期決戦で魔王の首を取るのが上策だと思うね。
コキュートスの吹雪をアヴァロンなしで突破は不可能だ。」
「最大戦力か…そうなるとアドルフの一派、ログレスのダンテ、竜人…アーサーの一派、これで充分だろうな。」
ジェラルドはあっさりと決断を下した。
デニスがやや不思議そうにジェラルドに問いかける。
「ジェラルド殿…最大戦力と言いましたが…およそ10人ほどの人数で攻めるのですか。」
ジェラルドは不敵に微笑みデニスに返す。
「最大戦力イコール多人数とは限らないだろ?今私が挙げた者達は一騎当千の強者達だ。」
「そう。彼らはいずれも、1人で神々とさえ渡り合える程の力の持ち主さ。その分他の全ての戦力を首都やその近郊へ集中させしまえばいい。」
マキシの作戦は大胆なものだった。
規格外の能力を持つ勇者達、それも少人数による侵攻作戦。
しかしこの作戦には穴がある。
「アーサー以外の者ではあの影は対抗できん。不死身の肉体を持つジークフリートでさえな。影がアーサーの言うとおり魔王の思念体だとするのなら、魔王は影を遠距離に飛ばせるということだ。」
「むう、私には難しいことはわかりませんが…影を複数飛ばすことが可能ならば、我々に勝ち目はないのでは?」
「それも考えられるけどね…
さっきも言ったけどあの影はアーサーに興味がある。それに本体が叩かれる危険があるなら、おいそれと思念体を飛ばしてる余裕なんてないと思うけど。」