絶望の影2
ヨハンは背中からエクスカリバーを抜き、それを床に突き刺した。
目を閉じ、瞑想し、呪文を唱える。
エクスカリバーはヨハンの詠唱に呼応するかのように金色に輝く。
大気を震わせる黄金の輝き、ヨハンはエクスカリバーの能力の1つを解放した。
「聖剣よ、我が願いに応えるのだ!理想郷‼︎」
その名、理想郷とは異世界の神話に登場する伝説の島とされる場所のことである。
この理想郷は使用者だけでなくその周囲にいる全ての者に対して、あらゆる災厄、障害を退け、万全の状態を維持する。まさに使用者にとって理想郷に近い状態を作る結界のようなものである。
この理想郷の範囲内では、呪い、状態異常、病から解放されるだけでなく、火の中、海の中といった通常活動できない空間での活動を可能にする。
そしてそれはあの正体不明の影ですら太刀打ちできない。最上の加護であり、まさしく勇者の中の勇者たる証なのだ。
「皆怯えることはない。今ここは、私の理想郷と化した。ここではあらゆる災厄や呪いから解放される。」
「な、何だ…力が、湧いてくる…!」
講堂が、そして勇者達が士気を取り戻した。
「私はこのためにここにいるのだ。あの影を、これから倒すとしよう。」
「なっ、たったお一人で、あれと戦うと仰るのですか⁉︎」
「心配は無用だ。あの影と言えど、この聖剣の前では無力に等しい。シモーヌ、ギルバート。お前達は建物への攻撃の盾になるのだ。この建物も流石にそろそろ厳しいと見える。」
ヨハンは姿を消した。転移魔法を使い、一瞬で外へと移動したのだ。
「やれやれ、戦いとなると人使いが荒くなりますな。行きますぞシモーヌ殿。」
「わかっている!王のため、この建物を守り切るぞ!」
2人もヨハンに続くように転移魔法で屋外へと飛び出す。
「我らも負けてはおれん!皆続くぞ‼︎」
他の勇者達も続くように外へと出始める。
機関の人間は大司教を守るために講堂に残った。
「大司教…?」
機関の人間が大司教の様子を伺う。大司教は顔を下に向けて震えている。
「あの輝き…あの前では、魔物はただのゴミも同然よ。くくく…
しかしあの影、あれはやはり魔王の…」
大司教の見たことのない歪な笑顔と独り言に機関の者は話しかけるのをやめた。