首都防衛戦5
竜人の戦闘はまさしく修羅と呼ぶに相応しいものだった。
地上に満ちた無数の死骸がそれを物語っている。炎と亡骸、竜人の暴れぶりによって城下町は災害が起きたかのような有様だ。
竜人は炎と亡骸の中ただ一人立ち尽くしていた。
たった1人ー、だがその存在感は圧倒的と表現する他ない。
その姿は人の形を成してはいるものの、見るものによっては巨大な龍そのものだ。
「これで終わりか?魔王の軍勢とか言ってるが、まるでお遊戯だな。」
地面に転がる魔物の首をリフティングし始めたかと思うと、その首を高速で上空の魔物めがけて蹴り飛ばした。
魔物の首は弾丸の如く、上空の魔物に命中、また一つ地上には亡骸が転がる。
魔物達も危険を感じ取ったのか、空中からも、地上からも近寄らずに距離を取っているようだ。
「雑魚ばっかだと準備運動にしかならねえな。ま、何はともあれ、第一陣は退けたか。」
地上の緊張感が和らいだ。それもそのはず、たった1人を突破できないのだ。どれだけ数で攻めようと無駄なのだから。
地上の兵やゴーレムはとうに後退していた。竜人の活躍を目の当たりにし次元の違いを感じたのか、おそらくもう前衛に出ることはないだろう。
中には既に武装を解いた兵たちもいる。
「ん?おい、なんか飛んでこないか?」
後退していた兵の1人が呟く。空から見えるのは魔物ではなく、何か光る物体だ。
その物体は視認できたかと思うと、猛スピードで竜人の横を通過し、勇者機関本部に激突した。
「何だありゃあ⁉︎」
竜人の目をもってしても見切れない何か。
それが今、大本営である機関本部に攻撃を加えたのだ。そしてその攻撃は単発で終わるはずもなく、次々と、雨霰のように降り注ぐ。
「やばい!逃げろ‼︎」
竜人は後ろで控える兵に呼びかけるが、それとはぼ同時に背後の兵達は、正体のわからない攻撃を受け、パニック状態になっていた。
攻撃は止むことなく首都を蹂躙する。
機関本部や首都の結界を容易にすり抜けるほどの一撃が嵐のように攻め立てる。
竜人は危険を感じ一旦後退したが、竜人の後退を察知したのか、待機していた魔物の軍勢が侵攻を再開し始めた。
「っ!まずい!」
竜人は地上から離れ、上空に飛び立ち、やや小さめの火球を3発空へと放つ。
それは前もって決めていた緊急を知らせる合図だった。
竜人の頬を汗が伝う。竜人が畏怖するほどの存在が姿を見せることなく攻撃を続けている。見えない重圧が空気を覆う。
魔物達が雄叫びを上げる。 反撃だと言わんばかりに。血に飢えた悪意の塊が黒い帯を成して攻め寄せる。そしてその先頭に“それ”はいた。正体不明の攻撃の主がー。