首都防衛戦4
「地上が危ういな。我々も打って出るべきでは?」
機関の者がざわつき始める。だがヨハンはじっと水晶玉を見つめていた。
「アーサー王、出陣をお考えでないのですか?」
シモーヌがヨハンに尋ねる。
「あの男は戦いの天才だ。映像越しでもわかるほどにな。それほどの男が空での戦いだけで満足するはずがないだろう。まだ我々が出陣するには早い。」
「そうですか。その答えをお聞きして安心いたしました。それでこそ我らが王でございます。」
ヨハンの観察眼はさすがという他なかった。竜人は空での戦いを一通り終えると、即座に地上に降り立ち、そのまま地上の魔物も屠り始めた。
彼の吐いた炎は前方に広範囲に展開していた魔物の軍勢を一瞬で焼き払った。兵たちは燃やすまいと彼なりに意識はしていたのか、人間に被害が出ることはなかったがゴーレムは巻き添えを食らい、そのほとんどが燃えていた。
地上に大きな揺れがしたかと思うと、地中から巨大な芋虫の化け物、ワームが突如現れ、一口で竜人を飲み込んだ。ワームはそのままの勢いで地上を蹂躙しようとした。
「飲み込まれやがった!」
機関の者が落胆したように言う。
だが地上を蹂躙するはずのワームは次の瞬間、大きく体をうねらせた。それは地上を滅茶苦茶にしようというワームの意図とは違ったように見えた。
「なんだあれ…苦しんでるのか…?」
ワームは体をぐねぐねとうねらせるどころか、一目でわかるくらいのたうちまわり始めた。体はまっすぐ上方に反り返り、天を仰ぐようだった。
そして体から次第に白煙が出てきたかと思うと、体が赤くなりやがて口から炎を吐きだした。
しかし、それはワームが吐き出した炎などではなかった。体内で食らったはずの竜人が体内からワームを焼き尽くすほどの炎を繰り出していたのだ。
ワームは天に向かって炎を吐ききったかと思うと、糸の切れた人形のようにどさりと地面に倒れ伏した。
ワームは体内から焼かれて黒く焦げ、白煙と焼けた匂いが辺りに充満した。
やがてワームの体を引き裂いて竜人が現れた。
地上の他の魔物たちも呆気にとられ動けないまま倒されていった。
ワームから飛び出した彼を待ちかまえていたのは馬に乗った首なしの亡霊騎士デュラハンだ。他の魔物とはケタ違いの戦闘能力を持つ。
が、騎乗していた馬は一瞬で焼かれ、竜人の突進で騎士の体はバラバラになった。
戦場は炎で一面焼かれ、魔物の屍がそこかしこに散らばっていた。
「す、すごい…」
「あれが…亜人種か…!」
ギルバートやシモーヌも一連の戦いに見とれていた。
「あの者は規格外だ。人間には真似できない戦闘スタイルだ。」
「彼の前では魔法など詠唱の暇すら与えてくれないでしょうな。おおこわ。」
「ドラゴンの持つ圧倒的な戦闘能力、高い耐性、炎による攻撃、空中戦闘も可能なトリッキーさ、奴一人で小国は滅ぼせるな。」
ヨハンも真剣なまなざしで戦いを見ていた。