窮地5
「グレン‼︎」
ガーゴイルの手にはちぎれたグレンの左手が握られていた。グレンははるか後方に投げられ、魔物に囲まれてしまった。
「うっ…うう…体が…動かない…」
アイリの石化も足先から徐々に進行し今では下半身がほとんど石になっている。
戦えるのはアンセムしかいないが彼は戦闘向きではない。魔物と直接戦えるだけの戦闘力は持っていなかった。
ガーゴイルもアンセムの出で立ちを見てそれに気づいていたようだった。
ちぎれた左手をぶんぶんと振りながらアンセムに語りかける。
「魔法使イ様ハ戦ワナイノカナ?イヤ戦エナイノカ?ケケケケケ」
「くっ…」
「ケケケケケ、女ノ石化ヲ解イテヤレヨ、大切ナ仲間ナンダロ?」
逃げ出すなら今しかない。だが石化を解いて彼女と共にあの魔物から逃げ切れるだろうか。やるしかないのはわかってる。だが、失敗は許されない。
アンセムの体が白く光り始める。手にした杖がアンセムの呪文の詠唱に応じてその輝きを増していく。
「ホウ。ナカナカイイ魔法ヲ使ウヨウダ。」
アンセムの杖から魔法が放たれた。石化を解除する魔法。柔らかな白く暖かい光がアイリめがけて飛んでゆく。
だがその光がアイリに届くことはなかった。
ガーゴイルが魔法の前に立ちはだかり、魔法をアンセムめがけて反射した。
光は反射された後、アンセムの右方向を飛んで行き、地面に吸い込まれるように消えて行った。
「な…そんな…馬鹿な…」
「オオット、済マナカッタナ。ソノ魔法ヲ目ノ前デ見テミタクナッテナ。モウ1度ヤッテミテクレ。」
もうアンセムには魔力がない。彼女の、アイリの石化を止める方法がなかった。
「アンセム……」
石化はアイリの心臓に達しようとしていた。ビキビキと体が石になる嫌な音が聞こえる。
アンセムは杖を握り絶望に打ちひしがれていた。目の前で仲間がただ無惨に死にゆく場面を見なければならないのだ。
「ああ、ああああああ…」
「魔法ヲ使ッテヤラナイノカ?見ロ‼︎モウ石ニナッテシマウゾ‼︎」
アンセムはもう一度呪文を唱え、杖から光を飛ばそうとした。だが杖は一瞬だけ光ったが、先ほどの光が出てくることはなかった。
アンセムは何度も何度も魔法を唱えた。
アンセムは涙で前が見えなくなった。見たくなかったのだ。
「ああああああああああああ‼︎」
気がつくと彼は無数の魔物に周りを囲まれていた。彼はもう自分も死ぬのだと悟った。
あのガーゴイルは石になったアイリを舐めるように見ている。
ふと横を見ると蜘蛛の魔物が何かをくちゃくちゃと咀嚼している。
魔物は口から何かを吐き出した。
「グレン…」
蜘蛛の魔物が吐き出したのはグレンの衣服だった。
「マアマアナ味ダッタ、ソレハイラナイカラヤルヨ。」