窮地4
2人とも動くことができなかった。
下手に行動したならアイリの命はまずない。
アイリがガーゴイルを振り切ってくれれば問題はないのだが、今のアイリにはそれは無理な話だ。
だがこのまま膠着状態が続くと、ガーゴイルだけでなく他の魔物にまで目をつけられてしまう。
状況は悪化の一途を辿っていた。
「オヤオヤ薄情ナ奴ラダ。泣イテイル女1人マトモニ助ケヨウトシナイナンテ…。」
アイリは羽交い締めにされながらまだ泣いている。今の彼女に冷静な判断は難しい。それに魔物を振り払う力など彼女にはないのだ。ここは無理矢理にでも彼女を連れ出し、拠点に戻るしかないが、それにはガーゴイルをどうにかする必要がある。
しかし2人にはガーゴイル一匹退けることができなかったのだ。
「ソウカ、オ前ラ俺ヲ倒セナインダナァ。
ケケケ、傑作ダ‼︎ソンナ実力デヨクモコンナ前線マデ出テコレタモノダ!」
「うっ…ひっく…えぐ…」
「ソンナニ怯エナイデクレ。心配スルナ、オ前ヲ殺シハシナイ。」
ガーゴイルはそう言うとアイリに灰色の霧を吹きかけた。灰色の煙はアイリを覆うとやがて消えて行ったが、彼女の体に異変が生じ始めた。
「か、体が石になりはじめている…。」
アンセムがガーゴイルの攻撃に気づく。すぐさま彼女の石化を止めようと試みるが、アンセムはここで考えた。
今石化を止める魔法を使ってもまたガーゴイルに同じ攻撃を使われたら、今の自分には石化を解除するだけの魔力はなくなる。
つまり、アイリが完全に石になる前にガーゴイルを倒さなければいけない。
もちろん自分とグレンで。
アンセムは頭をフル回転させ、現状を打破する方法を考えていた。だがアンセムが打開策を思いつく前にグレンが動き出していた。
「待ってグレン!あいつに物理攻撃はー」
「うおおおおおおお‼︎」
グレンはアンセムの話を聞かず、敵めがけて走り出す。事態は一刻を争う。このまま何もせず立ち尽くすことなど武闘家の性分に合わないのか。
ガーゴイルは彼女の羽交い締めを解き、石になる様を横でただじっと見ていた。
そんなガーゴイルの体にグレンの拳直撃する。一発、二発、三発ー
だがガーゴイルの体には傷ではなく、硬い体を拳で殴り続けるグレンの血が付いていた。
ガーゴイルは表情を変えることなく、反撃をするでもなくただ石化するアイリを眺めていた。
ガーゴイルもグレンの攻撃に気づいたのか、鬱陶しそうな顔つきになる。
「気デモ触レタカ、武闘家。オ前デハ俺ハ倒セン。」
「たとえこの体に限界が来ようとも…アイリは助ける…!」
「オ涙頂戴カ?ドウ考エテモオ前ニ限界ガ来ルノガ先ダ!
俺ノ体ヲ薄汚イ血デ汚スナ‼︎」
ガーゴイルは打ち込まれる左手をなんなく掴むと体を一回転させ、グレンの体ごと後方の魔物の群れがいろだろう場所に投げた。