窮地3
彼女はいっぱしの勇者になろうと努力はしていた。だが彼女には残念ながら戦う素質がなかった。性格面、身体面含めてそれは明らかだった。
「アイリ、もう今の俺にはみんなを治せるだけの魔力がないんだ。
一旦体勢を立て直してからもう一度来よう。」
アンセムが彼女をなだめる。白魔導師の発言はこういう場合非常に有効なものだ。
なぜなら白魔導師が死んでしまうと、回復やサポートが受けられなくなるので必然的に戦えなくなる。
治療が受けられない長丁場での戦いでは致命的。その事態を避ける意味でも体勢を立て直すのが上策なのだ。
「嫌だ‼︎私は最後まで戦う!これ以上仲間が死ぬのは見たくない!」
アイリは引き下がらなかった。
「一旦戻るだけだ…そうしたらまたすぐ来れる…」
グレンは気丈に振舞ってはいたが、その体は限界寸前だった。あまりにも長く戦いすぎたのか手は軽く痙攣している。
「う…うう、みんなで…生き残るって…言っだのに…ぐ…」
アイリはぼろぼろと大粒の涙をこぼす。
2人は内心、戦争で皆が生き残るなど絵空事だと思っていた。それくらいの意気込みでいなければやっていけないのはわかる。
だが誰も死なない戦争などこの世にはない。
だからこそ今のアイリの発言は到底戦う者の発言とは思えないものだった。
今の状況は芳しくない。
アイリ、グレン、アンセムの3人は拠点から離れた前線におり、ほとんど孤立している。
周りに隠れる場所などはなく、開けた荒野の中、瀕死の仲間を2人連れているが意識はなく、担いで動いている状態だ。
3人ともほとんど戦う余力がない。
遠くには、と言っても視認できる範囲でだが、魔物の軍勢が迫っている。
そのとき、地面から一匹の魔物が突然現れた。それは石でできた魔物、ガーゴイルだった。頭には角が生え、目はギラギラ光っており、鋭い爪、尖ったくちばしを持っている。
「くっ!こんな時に!」
「あいつには…物理攻撃が効きづらい…」
ガーゴイルは辺りをキョロキョロと見回す。
そして泣いているアイリに目をつけると、彼女の側に素早く近づき、彼女を羽交い締めにした。
「ケケケ…仲間割レカナ?人間ドモ。」
「くそ…アイリを離せ‼︎」
アンセムが威嚇するが、今の状態では全く効果がない。
「離セト言ワレテ離ス奴ガイルト思ウカ?
コイツノ泣キ顔ハナカナカ見モノダ…ズット見テイタイクライダ。」
ガーゴイルは体が石でできているため、物理攻撃がほとんど効かない。アイリ達の中には攻撃魔法が使えるものがいないことに加え、いたとしてもこの魔物達は魔法を反射するバリアを備えている。