窮地
大本営である首都は他方の4つの戦線が陥落していないため、敵が侵入してくることは全くなかった。
前哨戦は亜人種の活躍により勇者側に圧倒的な勝利をもたらした。魔物の正体も掴むことができ、勇者側は対策を講じていた。
だがここで2つの問題が生じた。
一つはキングピサロが奴隷を返せと要求したのである。
奴隷500名のうち300名を派遣していたため、予想以上に経済に打撃が出たのが理由だということだったが、それは表向きで実際はピサロ2世の我儘である。
奴隷を返さなければ首都に爆撃を仕掛けるというあまりにも突き抜けた声明を発表したのだ。
勇者側は仕方なくこれを承諾。ただ、全員をいっぺんに返還するのではなく、各戦線から少しずつ返還し、少しでも長く戦力を減らさないようにした。
「あの奴隷王め…今に見ておれ…魔王の次は自分だということを今にわかることになる…奴隷返還の速さを調整し、少しでも粘れ‼︎許さん…絶対に許さんぞキングピサロ‼︎」
「だ、大司教…キングピサロが飛空挺も返還しろと要求しております…」
「ならぬ‼︎飛空挺はコキュートス侵攻に絶対不可欠だ!壊れて動かなくなったとでも伝えておけ‼︎」
大司教は怒りで震えていた。
その怒りを察してか他の神官たちは彼に近寄ることができずにいた。
だがもう一つの問題が発生し、機関内はさらに混沌とすることになる。
「各戦線の戦況が軒並み悪化しております‼︎ばかな…魔物達がここまで強いはずがない…」
「北東部アリゼイユ魔物の侵攻を受け、首都に援軍を要求しています‼︎
このままの侵攻度合いから見てアリゼイユ陥落までおよそ…1時間…」
「ええい…次から次へと厄介事ばかり…アリゼイユは何故こうもうまく機能しておらんのだ⁉︎」
「コキュートスから一番近く魔物の勢いが予想を越えていることが原因かと思われます!さらに亜人種の士気が全ての戦線の中で一番低いとの情報あり。」
「まずいですね…アリゼイユが突破されると、首都への侵攻も時間の問題になります…」
大司教はしばらく沈黙した。講堂内の重苦しい雰囲気に負けたのか、神官達もそこから先は一切喋ることはなかった。
どれくらい時間が経ったのだろうか。
大司教がふいに話し始めた。
「首都の神官団をアリゼイユに派遣、前回派遣予定だったジェラルド達を至急向かわせろ。
それと…竜人については一番最後にキングピサロに送り返す。それまでは我が軍の一員として働いてもらおう。」