亜人種の力5
首都フィンガルト
「何だよ…呼んでおいて結局敵さんと戦えねえのかよ。」
竜人が不満そうに漏らす。それもそのはず、首都には敵が侵攻してこなかったからだ。
首都以外の4つの戦線は圧勝を収め首都は無事だったのだ。
「ひひひ、聞きましたかアーサー王、ログレスはダンテ将軍の指揮下、大勝したそうですぞ。」
ギルバートがヨハンに話しかける。既に他方4つの戦線の状況は首都に遠征した勇者達の耳にも届いていた。
どうやらログレスも無事だったようだ。
「そうか、やはりダンテはやってくれたか!」
ヨハンは嬉しさで表情が明るくなる。
魔王出現から急遽戦線を整え、先鋒を迎撃するまではとにかく急を要したため神経を使い過ぎていた。今、不安要素が一つ消えたことで緊張が少し解けたと言ってもいい。
「しかしアーサー王、面白い話を小耳に挟みましてな…なんでもアリゼイユでは亜人種との関係がうまくいってないらしいです…」
「なんと…アリゼイユには本国の勇者が全員いたのではないのか?」
「大方、勇者達が押さえつけるような態度で接したか、あるいは亜人種達に血の気の多い奴らがいたか…いずれにしてもダンテ殿に限ってその心配はないですが、戦線ごとにここまで状況が違うというのが興味深いと思いまして…」
ギルバートは人の不安を煽るのが好きなようだ。今もフードで見えはしないが、その目は好奇心でぎらぎらしているに違いない。
「ううむ、近く知らせはくるだろうが…その点は心配だな。」
「おいギルバート、王の心労を増やすのが貴様の仕事なのか⁉︎
男の癖に細かいことをねちねちと…ダンテ将軍に限ってそのようなことは断じてない‼︎」
シモーヌがギルバートに怒る。
「おおお、勘弁してくだされ。」
「そもそも王の御前でフードを被ったままなど不敬極まりない!そこに直れ!
その腐った性根を叩き直してやる‼︎」
「シモーヌ殿、ご乱心か。味方同士で争うなどとは…」
「よさないかお前達。」
低く、そしてはっきりとした声でヨハンが2人を止める。だがそこには確かな怒りも感じられた。
「お前達はことあるごとに争う。ログレスの者たちが見たらさぞ落胆するだろう。」
2人は気まずそうに離れる。
「今回お前達を抜擢したのは、何も嫌がらせではない。魔王討伐のため最もふさわしい人材を選んだ、それがお前達なのだ。」
2人は黙って聞いている。
「ギルバート、シモーヌ、これからは慎んで行動せよ。お前達は何よりもかけがえのない私の宝なのだからな。」
その様子を遠目から見ていた竜人はつまらなさそうに機関の塔へと戻って行った。
「けっ、こんなとこまで来て茶番かよ。」