亜人種の力3
「確かにくれてやると言ったな。」
「もったいぶるなよお、我慢できねえんだ、とっとと用意しろ。」
「俺はご無沙汰すぎてこいつでもいいくらいだ、へははははは‼︎」
アーロンは前線を指差した。
亜人種達はその方向を振り返る。
その一瞬でオークとリザードマンはアーロンに斬られた。
血が飛び散る。アーロンは返り血で真っ赤に染まったが、お構いなしだった。
「こんなことは言いたくないが…お前達はやはり奴隷の身分にふさわしいようだ。」
「ぐおお…人間、ごときが…」
「劣悪な環境で思考がねじ曲がってしまったんだな。可哀想に、せめて来世はまともな生を授かることを祈る。」
アーロンは2人に止めを刺した。
勇者の陣営も亜人種達も静まり返る。
ただ風の音と血なまぐさい臭いだけが空気を満たしていた。
しばらく2人の屍を見つめた後、アーロンは戦場の亜人種達に号令した。それは先ほどまでとは違い、共闘を促すものではなかった。
「お前達の実力も、思想もよくわかった。これからお前達は俺たちの奴隷だ。こいつらみたいになりたくなければ、黙って言うことを聞け。いいな?」
アーロンは覚悟を決めた。今の今まで自分は異種族同士が分かり合えるという下らない理想を掲げていた。だがそれはまやかしだった。このような猟奇的で、残虐な化け物とは相容れない。所詮こいつらは本能のままに動く畜生なのだと悟った。
このように戦の中で人格が変わる者も多い。どのような出来事がきっかけかはわからないが、それが後の人生に影響を及ぼす。そんな異常性が戦場には蔓延している。
勇者機関本部
「各戦線、亜人種達の活躍により第一陣を全て撃退した模様!損害は…ゼロです!」
「マグナブールに至っては亜人種達は出陣せず、その全てをジークフリートの一派が倒したようです。やはりあの者らは規格外ですな。」
勇者機関は肩透かしを食らった気分だった。
まだ1時間ほどしか経っていないにも関わらず、戦況が恐ろしいほど有利なのだ。
そうは言ってもまだ後続は控えているだろうが、亜人種達はやはり強かったということなのだろう。
「次の侵攻までどのくらいある?」
大司教が神官に尋ねる。
「およそ6時間後です。ですが、先の侵攻を踏まえると余裕があった方がよろしいかと。」
「うむ、そうだな。
そういえば、アリゼイユも順調だそうじゃないか。ジェラルド達に派遣は中止だと伝えろ。もう援軍の必要もなかろう。」
「ええ。もしかしたらこの魔王討伐、案外早く終わるのではないですかね?」