結婚のあり方
先月、3年ほどの婚約を経て、ウエスト侯爵家へ嫁いだ。
夫は同じ学園ではあったものの、3学年違ったため、卒業入学とで、一緒に学園で過ごすことはなかった。
侯爵家には義父母、義妹がおり、気を使うだろうと敷地内に新婚の私たちのために別邸をたててくれた。
建築中には婚約者であった夫と壁紙や家具、主寝室や客間を話し合い、早く一緒に暮らしたいねと耳を赤くする夫に、私は顔を真っ赤にしていた。
優しい夫。時々頑固なところをみせるが、嫌な感じはしない。婚約時代から、思い込みが激しいものではなく、しっかりとした考えを持って譲れないものがある、といったものだ。
侯爵家を継ぐための教育を受けながらも、王城へ文官として登城している。
昨年、隣国から嫁いで来られた王太子妃が自国での伝統的な「蜜月」新婚旅行を取り入れられた。
本来は、ひと月の新婚旅行や休暇だといった驚きのものだったが、お忙しいお二人は2週間に短縮され、お互いの国の観光地などをまわられたと聞いた。
夫が「自分たちも蜜月を楽しみたい」と言ってくれ、新居のこと、結婚式、侯爵家に連なる方々への挨拶など忙しい中でも、新婚旅行の計画を2人で楽しんで決めていった。
「私たちの時にはなかったわ」少しため息をついた母は、うらやましそうに「今からでも遅くないわ!1週間くらいなら、大丈夫でしょう?」と父に強請った。
父は仕方ないなとばかりに「ダイアナと一緒に行ったりして、邪魔してはいけないぞ」と言って皆を笑わせた。
2歳上の兄、5歳下の弟は笑いながら「俺たちは何旅行にする?ただの家族旅行だな!男2人じゃなあ」と肩をすくめあった。
「家族旅行として、また皆で行けばいいわ」母もにこにこと提案した。
「ダイアナ抜きでは寂しいから、その時にはフェルデナンドさんもお誘いしましょうか。ああでも、アルモンドの新婚旅行が先ね?」
アルモンド兄様は私の親友であるクリスティンと結婚する。義姉妹ね!と大喜びしながら、兄への文句はすぐに母に言うから安心して!と大笑いした。兄たちの挙式は私達の結婚式の半年後だ。
新婚旅行は楽しかった。侍女や護衛付きとはいえ2人きり。夫の仕事の都合で1週間だけだったけども、他領の観光地、行ったことない有名な場所などをゆっくりまわった。喧嘩もした。すぐ仲直り。
新婚旅行の話を聞きたいと義母、義妹が別邸へやってきた。
少し緊張するお茶会だが、家族のお茶の時間だからマナーも気楽にと、しっかりと侯爵家を切り盛りする義母がにこにこと私を気遣ってくれ、1つ下の義妹も夫と地図を広げながら、お土産はどこで買ったなど、お茶を飲みながら話して笑いあっていた。
楽しい話の中、そっと義妹がため息をつく。義妹は来年、公爵家の嫡男と結婚予定。
「お義姉様がうらやましいわ」ぽつりとこぼれるような声に義母もため息を少し。どうしたのかしらと夫を見やると
「あいつは、相変わらずか」少し固い声の夫。
「そうなの。でも些細なことなの。公爵家は家格が高いとマナーが厳しいと思えばいいとお父様もおっしゃるし」
義妹は、うちの侯爵家がくだけすぎているのかもと無理に微笑む。
義妹の「些細なこと」とはこういったことらしい。
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しっかりとエスコートしてくれるが、歩調は合わせてはくれない。少し小走りにならないよう歩幅もマナーの範囲で大きく歩かなくてはいけない。
出かける場所も「一緒に決めた」感じで、自分の行きたい場所ばかり選ぶ。
少し口論になっても、相手をたてようと譲ると「考えが合って良かったよ」と言う。時には言いくるめられてしまう。
公爵家に招かれた時に自分の話をすると「侯爵家は責任がなくていいね」など、少し貶めるような言い方をする。それにうなずく公爵家の人たち。
待ち合わせに遅れたりすると「管理能力がないのかな?」と冗談混じりで言う。
服装にも流行りを取り入れると軽率ではないか?と言われてしまう。
街歩きデートでは、買いたい目的だけではなく、少し見たいだけでも「買わないなら入る必要は無いだろう?時間の無駄ではないか?」と言われ、気を抜くと置いていかれそうになる、などなど。
義妹にとっては本当に些細なことらしい。
でも、本当に些細なことかしら?
私にとって、この侯爵家の家族は実家の侯爵家と同じく、家族の中だけだと気楽にすごせる。実家でも、内と外の使い分けをしっかり躾けられてきた。お義母様もお母様と同じで、家族だけならのんびりしたいと笑うおおらかな人。
女性の歩幅と男性のそれとは違う。母は兄と弟には厳しく女性に合わせるように躾けていた。
食事の時も女性に合わせるようにと。女性を大事になさい、とそれはそれは厳しく言ってらした。
夫と出かける場所を決める時も、自分の行きたい場所をそれぞれ話しながら、今回はここ、次は相手の話した場所。知らない場所。楽しそうだねと決めていた。
どうしても興味が持てない場合は同じ趣味の友人と行くか、お互いの興味を知りたい。相手を知りたいという気持ちが優った。夫もそんな感じで話していた。
管理能力がない?責任がない?最早悪口にしか聞こえない。無神経?家格が高いから?
義妹の感じ方が疑心暗鬼になっているかもしれないと夫や義母をみると、そんな風には見られなかった。
「新婚旅行も行かなくていいとおっしゃるの。隣国の怠けた行事などって…」義妹の声が震えてる。
「お父様は、あの公爵家は元々、王家の血筋だから、隣国の伝統に少し抵抗があるのかもともおっしゃっていたけど…」ほろりと涙する義妹の背中を義母がさすり
「家格が上でなければ、いえ、あの公爵家でなければ、こちらから婚約解消もできるのだけど…」
確かに義母のおっしゃる、あの公爵家は別格。義妹の姿に心が痛む。あちらからの義妹へのご縁で、格上の縁ができたと最初は嬉しかったそうだ。
実家や、この嫁ぎ先が心地よく浮かれすぎていたとしょんぼりする私に
「お義姉様、ごめんなさい。こんな楽しい話の時に」優しい義妹。
「これだから侯爵家の人間はって、こないだも言われてたろう!お前が押さえなければ、殴りかかってたところだった」
優しい夫にこんな激しい一面もあるのか。可愛い妹だし、家を馬鹿にされたとあっては、些細なんてものではない。
これから嫁いで、その中で一生を暮らしていく。高位貴族の結婚は家同士の関係もある。
私は、かなり恵まれている。実家でものんびりと、しかし厳しく育ててもらった。
両親、兄弟からも愛されていると実感できる。両親も政略結婚だが、とても仲が良い。
だから私も、夫と少しずつ愛を育んでいけたらと、夫の家族とも仲良くできたらと頑張っている。
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それは突然やってきた。
義父が疲れた顔して帰ってきて早々に義妹と義母、夫を執務室呼んだのだ。義母は私の顔を見て「貴女もいらっしゃい。家族だもの」と言った。
何の話なのか、義父の様子からは悪い予感しかない。
人払いされた義父の執務室。
ローテブルにお茶がおかれ、皆でソファに腰を下ろしたところで義父が厳しい声で話し始めた。
「公爵家の縁はなくなった。婚約は解消された」
えっ。された?一方的に?
「第ニ王女の降嫁が決まったそうだ」
第二王女はまだ13歳でいらしたのではないかしら。10歳上の公爵家嫡男への降嫁になるの?
「まだ正式発表はされない、今年の王女の誕生日でのデビュタントでお披露目となる」
義母は「この娘のことはどうなるのです」と震えを抑えた声で言う。
「王家と公爵家から慰謝料と新たな縁をご配慮いただくと言われた」
義父は肩を落としながら、自分たちに全く話がないまま決定されたと、つぶやいた。
決まったことを言われただけ。大事な婚姻の当事者に何の連絡もなく。
「あの公爵家だもの。仕方ないわ」
義妹が毅然と言った。眼には怒り。だが顔色は真っ青だ。膝に揃えた手は震えている。
「決まったことなのよ。私は関係なかったの。そんな家なのよ」
「王太子と王太子妃からお見舞いをいただいた。また、御言葉もだ。聞きなさい。陛下や公爵家が帰ったあとに、こっそりお二人で私のところに来られたのだ」
第二王女は本来なら他国へ嫁ぐ予定だったが公爵家の嫡男に一目惚れしてしまったと。王家が臣下への婚姻の横槍は許すべきではない。
だが、あの公爵家も第二王女を欲したのだ、と。妹は公爵家で苦労するな、自分の力不足で止められなかった、すまないと、殿下は義父に頭を下げられたそうだ。
義妹には別の公爵家の次男に家内の伯爵家を与え、嫁ぐことを提案されたそうだ。
義妹は「伯爵家ですね。あの公爵家の縁ではない方」と義父をみた。
義父は「まだ提案だ。お前の好きにして良い。これからゆっくり探しても大丈夫だ」と少し微笑みながら義妹を労わるように、しかし疲れた声で言った。
「そうね、決まってしまったものなのね、王太子殿下も妃殿下と縁を結ばれて変わられたわね。見えないところで、ご配慮なさるなんて」
義母も疲れた声で言った。
「いいわ、お父様。伯爵家に嫁ぎます」義妹が覚悟を決めた顔で言った。
「ゆっくり考えていいのよ」と義母。
「なんならずっと家にいてもいいんだ」と夫。
「お兄様、お義姉様に嫌われてしまうわよ。勝手に決めてはダメ」
慌てて私も「お好きなだけいてください。ご自分のお育ちになった家です。仲良く暮らしていきましょう」
「お義姉様、ありがとう」そこで、ほろりと義妹が涙をこぼした。
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義妹は最初に提案された伯爵家に嫁いでいった。
「新婚旅行は2週間よ、お義姉様!彼は私を早歩きさせないし、一緒に考えてくれる。一緒に泣いて一緒に笑ってくれるの!」と、家族同士の挨拶の後、義妹は私に言った。
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第二王女殿下の降嫁は盛大なものだった。夜会で見るお二人は少しの距離。
夫人同士の噂では、王女での気質のままの小公爵夫人が、夫である小公爵への不満を陛下に言ったりされてるとのこと。
王太子から知って嫁いだのだろうと叱られていると、王城で文官まで噂話しにされていると登城してる夫が教えてくれた。
嫁いでもお互いの家を行ききしながら
「あの公爵家だったら、こんなに実家に来れないわ」と義妹が微笑んでいる。




