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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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悪役令嬢にされる君を今度こそ幸せにしたい

作者: 奏多
掲載日:2026/08/06

 その日は、予想外が重なった。

 

 ルディアスが急いで王宮へ駆けつけ……そこで最初に耳にしたのは、王子の宣告だ。


「その者レイナ・フィディアスは、本物の令嬢であるマリーシアを庶子だと貶めてきた悪人だ。牢へ連れて行け」


 王子が指さしたのは、窓際にいた彼女――レイナだ。

 信じられない出来事に、レイナは真っ青になっていた。


(こうなる前に、連れ出すはずだった)


 それができなかったのは、王都から離れた箇所で魔花が繁茂したことで、聖騎士である自分が行くしかなくなったから。

 さらには出席する直前に、足止めをするかのように王都内で騒ぎが起こり、馬を駆けさせることができなかったのだ。


 レイナは恐怖で震えながらも、逃げだしてくれた。


(よかった、こっちに来る)


 逃げ場を探し、控えの間を通り抜けてくるレイナは、ちょうどルディアスの方へ走って来た。

 だからとっさに手を掴み、息切れしている彼女を近くの小部屋に隠す。

 

 ここは使用人が控えのために使う場所だ。

 貴族令嬢が入るわけがないと思った兵士達は、まっすぐに彼女が走り続けると勘違いして通り過ぎていってくれたようだ。

 ぜいぜいとしていた息が整ってくると、レイナはお礼を言ってくれる。


「あの、ありがとうございます。助けてくださって……。その、お名前をうかがっても?」


 聞かれて、ようやく彼女に名乗れることが嬉しかった。

 でもレイナの方は、ルディアスとは初対面だ。

 こちらもそのつもりでいなければ。


「ルディアス。……ルディアス・レーンだ」


「聖騎士の?」


 家に閉じ込められて暮らしていたレイナでも、聖騎士の称号と伯爵位を持つルディアスのことは知っていたらしい。

 いつもは邪魔な知名度も役に立ったようだ。


「どうして助けてくださったんですか?」


「あまりにも一方的な状況だったもので。見過ごせなくなった」


(くっ、言えない……。君を死なせずに助け出すためだとか、それを私が知っていることなど)


 本当のことを言えないせいで、ふわっとした回答になってしまう。

 でも素直に話したら、私のことを異常者だと思って逃げてしまうはずだ。


 たとえば、こうして君が王子達によって罪人にさせられてしまうこととか。

 それを止められず、君を逃がすしかなかったのは三度目だとかは。


(前回は説明して、困惑させたせいでレイナの混乱が増してしまった。そうして失敗したんだ)


 だから詳しいことは言わない方がいい。

 でもレイナは納得できなかったようだ。


「私を助けたら、ルディアス様まで何かしら罰を受けます。なのに、見過ごせないだけでそんなことをなさったんですか?」


 どう説明しようか。

 悩んだ末に、ここへ駆けつけるまでの間に忘れていた予行演習のことを思い出した。

 そう、たしかこんな風に言おうと思っていたんだ。


「実は以前からあなたのことを知っていたんだ、レイナ・フィディアス伯爵令嬢。お母上のご実家が、精霊使いの支援をしていらしたから」


 レイナの母の実家は、精霊使いを代々支援してきた家だった。

 精霊使いは神聖力を持っているので、聖騎士の自分とつながりがあると思ってくれるかもしれない。


「だからって、聖騎士様がその称号に泥を塗るようなことを……」


 私の嘘を信じてくれたようだが、それでも助ける理由になるとまでは思わなかったようだ。

 しかし説得する前に、レイナを探す兵士達に声を聞きつけられた。


「こっちから声が聞こえる!」


 そんな声が聞こえて、すぐに彼女の手を引いて部屋を出た。

 見つからないよう窓から出る。

 庭は暗く、パーティー会場になってる広間の側以外では明かりを灯してはいない。

 身を隠すのにはうってつけだ。


(このまま……誰かに見つかりそうになった時には、神聖魔法で隠せば)


 どうにか彼女を隠したまま、王宮から脱出できるはずだ。

 ほっとした時だった。


 行く手からも兵士達の声が聞こえる。

 それで怖くなったのか、レイナが立ち止まってしまった。 


 ――私まで立ち止まったのは失敗だった、と後で後悔した。


 無理に引っ張ってレイナが転ぶのが怖かったのだ。

 驚く私にレイナは微笑んだ。


「聖騎士様、ありがとうございました」


 それだけ言って、崖に面した低い塀へと走り出す。


「まさか……レイナ! 待ってくれ!」


 止めようとした。

 でも、兵士の目を避けて崖の近くを通っていたのが悪かった。

 彼女はあっという間に塀に立ち、塀を蹴ってまっすぐに川に落ちていった……。


 高台に建つ王宮の片側は崖になっていて、下には川が流れている。

 その川に、重たい物が落ちる音がした。


「レイナ……」


 また、彼女を死なせてしまった。


「助けられると思ったのは、私が傲慢だからなのか?」


 よくわからないまま人生を繰り返しているけれど、その隙間に、可哀想な死に方をした人を助けられればと思っていた。


 二回目に、それができなくて。

 説明したことが仇になったから、責任を感じて今度こそと思ったのだが……。


「なぜこんな風に、同じ数年間を繰り返すのかはわからないが。もう、次のことに目を向けるしかない、か」


 いずれ、隣国がしかけた侵略がはじまる。

 それに備えて、細々と命を繋いでいる病弱な弟を生き延びさせよう、今度こそ。

 

 でも思い浮かぶのは、最後に見た微笑みだ。

 最初に見た時から、妙に心に残る人。

 でも、どうしようもない。


 ルディアスは踵を返そうとした。

 しかし、塀の向こうが急に明るくなる。


 驚いて塀に駆け寄り、下を見下ろす。

 王宮の外側をめぐるように流れる川が、広い範囲で発光している。

 そうしてふわふわと光の粒が舞い上がり、空へと広がって私の元にも届き――。


『じゃ、そんな感じでもう一回いっときましょ?』


 そんな声が聞こえた瞬間、意識が途切れたのだった。




 次に目が覚めた時、ルディアスは息を飲んだ。

 そこは自室だ。

 長い夢を見ていたような疲れを感じながら起き上がると、執事がやってきて今日の予定について話す。


 その内容は、もう、何度も聞いた通りの物。

 しばらく神殿へ行けなかったからか、大神官が訪問してくるという物。

 弟のための魔術師の来訪。

 そして、王家からの手紙には、式典への出席の要請が書かれている。


(前、時間が戻った時は……自分が死んだ時だった。病気が蔓延して、止められず。弟も亡くして、王国に隣国が侵攻しようとしていた。とても王国がそれを防げるだけの兵力を持っていないのは明らかで……。身内を連れて聖王国へ移動しても、まだ病魔が追って来たのだ)


 だからルディアスは、時間が戻るのは聖騎士の自分があの病魔を解決する方法を見つけ出すか、隣国の侵攻を止めなければならないのかと考えていたのだ。

 その途中で、妙に気持ちが引かれる彼女を助けようとしていただけで。


「だが彼女が、時間が戻る理由そのものなのか?」


 つぶやいたルディアスは衣服を着替えると、執事に言った。


「王家の手紙については後回しだ。返事は数日置いてもかまわない。それよりもやってもらいたいことがある」


「どうぞお命じください」


 執事の言葉にうなずき、ルディアスは指示した。


「フィディアス伯爵家の娘について調べてくれ」


 彼女を別の手段で救う方法を探さなくてはならない。

 そうしてルディアスは、レイナを助ける方法を探しては失敗するのを繰り返し……。


 七回目。


 なぜか戻った時間が、短かった。

 二年しか遡っていない。


 これでは色々な準備などできない。

 そう思いつつ、ルディアスはとにかくレイナの様子を確認しに行くことにした。


「前と変わりはない……か?」


 レイナの実家、フィディアス伯爵家の門は閉ざされ、館の方も鎮まり返った状態のまま。


 ならばと、ルディアスは彼女の母の実家が管理していた家を前回までに探し出していたので、執事に命じて掃除や管理をする人間を手配した。


 合間に、もう何度も繰り返した事柄を処理しつつ、日に一度はレイナの家を通りすがるふりをしつつ伺ってしまう。


 ほんの少しでも、彼女の姿が見えないだろうか。

 そう思いながら。


 そんな日々をしばらく過ごしていた時だ。

 今日もレイナの家へ行き、戻ろうとしていたら……なぜか王都の片隅で、座り込んでいる彼女を見つけた。


 思わず、声がかけられる。


「……君、大丈夫か?」


 レイナが顔を上げる。

 間違いなく彼女だ。

 途方に暮れた表情だったのに、ルディアスを見たとたんに少し目が輝き出す。


 まるで、知っている人を見つけたかのように。


(もしかして、私のことを知っているのか? 覚えているというわけでは……ないよな?)


 彼女も、以前の記憶を一かけらだけでも持っていたとしたら。

 そんな希望を持ちながらも、ルディアスは慎重に、初対面を装って話しかけた。


「迷子か? 怪我をしているのか?」


 その言葉に、彼女は元気に手を挙げてくれた。


「あの、迷子です!」


 心の中でルディアスはよし、と言う。

 彼女はたぶん、家を出たんだろう。

 どういう経緯でそうなったのかはわからないが、行く宛がないのかもしれない。

 だったら、すでに整え終わっている彼女の母の持ち物だった家に案内しよう。


(あそこなら安全に過ごせるはずだ。そして、ゆっくりと距離を縮めていこう)


 七度目だけれど、最初から始めるつもりで彼女との時間を積み上げていく。

 なにせレイナは、何も知らないかもしれないのだから。

 そう思いながらルディアスはレイナに手を差し出したのだった。

「しがない悪役令嬢ですが今度こそは幸せになりたい~」の序盤、ルディアス視点になります。

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