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『限度額ゼロの俺が最強なんだが、使うたび人生終わるんだが?』  作者: 比呂石 凪


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第7話【リボ払い】雪だるま式に膨らむ恐怖

「……逃げられた、か。いや、逃がされたと言うべきか」


地下迷宮の静寂に、九十九の冷徹な呟きが落ちた。 彼の前には、透の『断罪の銀剣』によって裂かれた光の盾の残骸が、デジタルノイズとなって消えつつある。九十九は自身の純白のカードを見つめた。表面に、肉眼では確認できないほど微細な「亀裂」が走っている。


「公費決済を物理的に破壊する力……。神城透、君の『与信』の正体は一体何だ?」


その問いに答える者はいない。ただ、暗闇の奥から「回収コレクション」を急かすシステムアラートが、彼の網膜で静かに点滅していた。


「……ハァ、ハァ……っ! ここまで来れば、たぶん……」


透はナギに支えられながら、廃棄された地下下水道の作業員通路に倒れ込んだ。 視界がチカチカと点滅している。それは疲労によるものだけではない。右手の指先から始まった「透過」が、今や手首のあたりまで侵食していた。まるで、自分の肉体が低解像度のホログラムになったかのような、不気味な浮遊感。


「おい、しっかりしなよ。……あんた、自分が今どんな状態か分かってるの?」


ナギが透の右手を掴み、ゴーグル越しに解析スキャンする。


「『キャッシング』の利息が、リボ設定の術式と最悪の形で噛み合ってる。あんたの身体は今、一秒ごとに『未来の自分データ』を売って、現在の実体リソースを維持してる状態だよ。雪だるま式に膨らむ負債が、あんたの存在確率を削り取ってる……」


「……わかって、るさ。でも……これを見なきゃいけなかったんだ」


透は震える左手で、ガモンから奪い取ったチップを掲げた。 先ほど聞こえた父の声。それは、透が十歳の時に「多額の負債を遺して失踪した」と聞かされていた父、神城健一のものに間違いなかった。


「……ナギ、これを再生できるか? さっきのは途切れてた」


「……やってみる。でも、ここじゃ電波が悪い。ユニオンの監視網ドームの外側に接続を偽装しないと、再生した瞬間に位置を特定されるよ」


ナギはマウンテンパーカーのポケットから、いくつもの変換アダプタが飛び出した自作デバイスを取り出した。チップを差し込み、透のカードとリンクさせる。


『——外部デバイスを接続。……所有者認証:神城健一(失効済み)』 『——エラー。残高不足により再生できません。再生には 50,000円 の追加決済が必要です』


「……っ、ふざけんな! 親の遺言を聞くのに金を取るのかよ!」


透は地面を叩いた。今の彼の残高は、逆転チャージバックで得た余りの二千五百円しかない。五万円など、到底払える額ではなかった。


『……なら、私が肩代わりしてあげましょうか?』


脳内に、再びあの涼やかな、しかし逃げ場のない声が響く。 璃子だ。彼女はオフィスのバルコニーで、夜風に長い髪をなびかせながら、タブレットに表示される透の「崩壊率」を眺めていた。


「璃子……! 見てたのかよ、今の」


『ええ。九十九相手に生き残ったのは評価するわ。でも、あなたのその右手……「存在の希釈化」が進めば、あなたは誰の目にも映らなくなり、触れることもできなくなる。この世界から「ログアウト」させられるのよ。……お父様の言葉、聞きたいでしょう?』


「……いくらだ。今度は何を貸し付けるつもりだ」


『いいえ。今回は趣向を変えて「ポイント」の利用を提案するわ。あなたがさっき九十九に一撃入れたことで、私の「御影グループ」の株価がわずかに変動した。その余波で得た「ポイント」をあなたに譲渡する。……ただし、そのチップの内容は、リアルタイムで私のサーバーにも共有してもらうわよ』


璃子の提案は、いつも論理的で、そして致命的に透の弱点を突いてくる。 透はナギを見た。ナギは複雑な表情で首を振ったが、透の消えかかった右足を見て、それ以上の制止を飲み込んだ。


「……わかった。決済してくれ」


『承認。……リンク開始』


『御影ポイント:50,000pt を消費。……認証成功。ファイル再生を開始します』


チップから、先ほどよりもクリアなホログラムが投影された。 そこに映し出されたのは、研究室のような場所で、憔悴しきった表情の父・健一の姿だった。


『……透。このメッセージを見ているということは、私はもう「清算」された後だろう。……いいか、よく聞け。この世界の「与信クレジット」は、私たちが信じているような「個人の信頼」の数値ではない。……それは、ある巨大な「存在」が人類から吸い上げている「命の余剰」だ。ユニオンの議長、天利が隠しているのは……』


父の声が、急激にノイズで歪み始める。


『……カードを切るな。……いや、切るなら「本当の署名サイン」を見つけろ。……それは、規約の裏側に隠された、人類最初の……』


バチッ、と火花が散り、投影が強制終了した。 同時に、透たちの背後の壁が、物理的な衝撃ではなく「空間の切り取り」によって消失した。


「——そこまでだ、債務者諸君」


現れたのは、九十九ではない。 派手な金髪をかき上げ、数千万円は下らないであろう白金のスーツを纏った青年。 その手には、透が見たこともないほど分厚く、宝石のような輝きを放つカードが握られていた。


「誰だ、あんた……」


「僕? 僕は黒須銀次。この街で最も『わく』を持て余している男さ」


銀次は退屈そうに欠伸をしながら、透の透けた腕を指差した。


「へぇ、それが父さんの言ってた『バグ・カード』の持ち主か。汚いね。……ねぇ、そのチップ、一億円(一億クレジット)で売ってくれない? 君のそのゴミみたいな人生を、一瞬でプラチナに変えてあげられるよ?」


銀次の背後から、彼が「雇った」と思われる数十人の私兵たちが、一斉に最高級の武装スキルを展開し始めた。


透はチップを握りしめ、消えかかった足で一歩前に出る。 父が残した言葉——『本当の署名』。 それが何を意味するのかは分からない。だが、目の前の「金で解決しようとする傲慢」だけは、今の自分にとって最大の敵だと直感が告げていた。


「……断る。これは、売り物じゃない」


「……そ。交渉決裂だ。じゃあ、君の残高ごと『買収(買収)』させてもらうよ」


銀次がカードを振りかざす。 その瞬間、透の視界に、今まで見たこともない「ゼロ」が並ぶ巨大な決済画面が乱入してきた。



現在のステータス: 神城 透

残高:2,500円(※負債:630,000円 / 利息により毎分増加)

信用スコア:Gランク(消滅まで残り15%)

状態:右腕・右足の透過、父親のログ(断片)を保持、御影璃子による常時監視


第8話へ続く:【リボ払い】上限なき買収の嵐

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