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『限度額ゼロの俺が最強なんだが、使うたび人生終わるんだが?』  作者: 比呂石 凪


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第6話【キャッシング】命を前借りする戦場


「一括清算、開始だ」


天井の崩落と共に舞い散る瓦礫の中、回収官・九十九が静かに着地した。 彼が掲げた純白のカードから放たれるのは、眩いばかりの「規約プロトコル」の光。マーケットを覆っていた不潔なネオンが、その光に触れた端から無機質な白へと上書きされていく。


「くっ、回収局の最上位個体……! 九十九か!」 ガモンが忌々しげに叫び、背後の影を増幅させる。


透は混乱する戦場の中で、目的のチップを掴んだまま身を低くした。チャージバックで手に入れた二万五千円。これで戦えるのか? 九十九の背負う「ユニオンの総与信」を相手に、バイト代程度の残高で何ができる。


「神城透。ガモン。貴様らの行為は、経済循環における致命的なノイズだ。……排除デリートする」


九十九が指先でカードを弾く。 【決済:Sグレード・スキル『ジャッジメント・レイ』。利用額:非公開(公務執行につき全額公費負担)】


「公費負担だと!? ふざけるな!」 透が叫ぶのと同時に、極太の光条が放たれた。


ガモンは影の怪物を盾にしたが、一瞬で蒸発。光の余波が透を襲う。 咄嗟に白いカードを構えたが、衝撃だけで視界が真っ赤に染まった。背中の「リボ・チェイン」が激しく軋み、透の筋肉に無理やり決済を促すような激痛が走る。


「……あ、が……っ」


『神城くん、聞きなさい。今のあなたでは、正面から清算たたかっても一秒も持たないわ』 脳内に響く璃子の声は、焦りよりも冷徹な計算に満ちていた。 『九十九のカードは、ユニオンの巨大なプールから無限に等しい与信を引き出している。対抗するには、あなたも「借りる」しかないわ』


「借りる……? 誰からだよ! これ以上借金を増やせってのか!」


『そうよ。ただし、ユニオン(あちら)の用意した道ではなく、私の……御影の裏口を使いなさい。カードの裏面、チップの左側に指を。……「キャッシング(現金前貸し)」の裏コードを入力して』


透は言われるがまま、震える指でカードの端をなぞった。 その瞬間、カードから冷たい針が突き刺さったような感覚と共に、ドロリとした「黒い残高」が流れ込んできた。


『緊急与信・融資キャッシングを実行。借入額:100,000円』 『警告:実質年率 29.2%。これより1分ごとに利息が元金に組み込まれます』


「10万……! でも、身体が……重い、さっきより……!」


「神城、無駄だ。負債を増やして得た力は、お前の存在を希釈する毒でしかない」 九十九が冷酷に告げ、次の一撃をチャージする。


だが、透はその重圧の中で、手の中の「チップ」が熱を帯びていることに気づいた。 チップから流れ込んでくるのは、データではない。かつてこの街で、カードなしに、ただ「信頼」だけで繋がっていた人々の、古臭い、しかし力強い記憶。


(……このチップ。中に入ってるのは、借金のデータなんかじゃない……。これは、ユニオンが消し去った「過去の契約」だ……!)


「ナギ! 伏せろ!」 透は、いつの間にか物陰から自分を窺っていたナギに向けて叫んだ。


「九十九! あんたの言う『正しさ』が、この重っ苦しい数字の積み重ねだってんなら……俺は、その全部をぶん殴ってやる!」


透は10万の与信をすべて右手の銀剣に注ぎ込んだ。 通常の決済音ではない、何かが壊れるような不協和音がマーケットに響き渡る。


【決済:3回分割スプリット —— 1回目。スキル:『断罪の銀剣・真打バースト』】


銀の刃が、九十九の光の盾を真っ向から叩き割る。 その衝撃の最中、透は九十九の背後に、巨大な「穴」のようなものを見た。九十九が与信を引き出している先——ユニオンの心臓部へと繋がる、底なしの暗黒。


「な……っ!?」 九十九の冷静な表情が初めて崩れた。


爆煙が立ち込める中、透はナギの腕を掴み、崩落した通路の奥へと走り出す。 チップを握りしめた手のひらが、焼けるように熱い。


「……ハァ、ハァ……。逃げ、切れたか……?」


「……バカじゃないの、あんた」 ナギが呆れたように、しかしどこか戦慄したような瞳で透を見つめていた。 「……今の、ただのスキルじゃない。あんた、自分の『寿命』を直接決済に回しただろ。見てみなよ、自分の指」


透が視線を落とすと、カードを握っていた右手の指先が、うっすらと半透明に透けていた。 デジタルノイズのように、現実から「消えかかっている」。


その時、手の中のチップが、小さな音声ログを再生した。 ノイズ塗れの声。だが、それは間違いなく、幼い頃に失踪した透の父親の声だった。


『……透。もし、この「無効化された信用チップ」を手に取ったなら……決してユニオンを信じるな。彼らが売っているのは「便利」ではなく、「未来の……」』


音声はそこで途切れた。


「……親父……?」


透の問いかけに答える者はいない。 背後からは、九十九の追撃を告げる無機質なサーチライトの光が、地下迷宮の奥まで差し込んできていた。



現在のステータス: 神城 透

残高:2,500円(※キャッシング分10万はスキル発動で即時消費 / 負債:580,000円 ※利息爆増中)

信用スコア:Gランク(消滅危機)

状態:存在の希釈化(右手指先)、心拍数異常(ノイズ深刻)、父親のログを保持


第7話へ続く:【リボ払い】雪だるま式に膨らむ恐怖

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