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『限度額ゼロの俺が最強なんだが、使うたび人生終わるんだが?』  作者: 比呂石 凪


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第35話【清算】引き金と、約束の報酬

「……やめなさい。そんなの、認めない」


サキの指が、引き金にかかっていた。銃口は真っ直ぐに透の胸——父・健一のチップが埋め込まれた心臓を捉えている。涙が頬を伝い、視界を歪めていたが、彼女のプロとしての技術スキルは残酷なほどに、その標的を逸らさない。


『そうだ、放て。……慈悲深き死という名の「デフォルト」を与えてやるがいい』


黄金の天利が、透の背後で甘く囁く。宇宙船のブリッジ全体が、透から溢れ出す黒いノイズと、天利が送り込む黄金の光の衝突によって、現実感を失い、崩壊し始めていた。


「サキさん……撃て!!」


透が叫ぶ。彼の義手はすでに船のメイン・システムに「融解」しており、彼の肉体は宇宙船の一部として、全人類の負債を肩代わりするための巨大な導体と化していた。


だが、サキの瞳に宿ったのは、透が求めた絶望ではなかった。 彼女は一瞬、かつて透に言った言葉を思い出していた。「私は、あんたの不運を買い叩くためにいるんじゃない」。


「——私は、あんたに『死』なんていう安い報酬ギャラは払わないわ!」


サキが引き金を引いた。 激越な銃声。 だが、弾丸が貫いたのは、透の心臓ではなかった。


透が宇宙船のレバーを握る「右の義手」。その手首の、継ぎ目のわずかな隙間。そこには、第1話で義手を装着して以来、一度も開かれることのなかった「非接触型の予備スロット」が存在していた。


「……ッ!? あ」


弾丸の衝撃で義手の外装が弾け飛ぶ。 そこから現れたのは、健一のメインチップとは異なる、歪な形状をした「第3のチップ」だった。それは第25話で受信した九十九のノイズ、そして第28話で老人が語った「利息の計算ミス」の、真の正体。


『——外部物理衝撃を確認。……隠蔽プロトコル:【匿名預金・裏帳簿】を展開』


「な、んだ……これ……!?」


透の脳内に、父の声ではない、もっと多層的な「数千万人のささやき」が、濁流となって直接注ぎ込まれた。 それは天利が求めた「憎しみ」でも、透が抱いた「拒絶」でもなかった。 それは、ユニオンというシステムの中で、人々が「支払う必要のなかった利息」——つまり、システム側が意図的に着服していた『過払いされた人生』のログだった。


『バカな……! そんな帳簿、存在しないはずだ! 健一は……神城健一は、憎しみを溜めていたのではないのか!?』


黄金の天利が、初めて狼狽の声を上げた。彼の虚像が、バグのように激しく点滅する。


「……父さんは、あんたを信じてなかっただけじゃない」 透は、弾け飛んだ義手の隙間から溢れ出す「真っ白な光」を見つめた。 「あんたが『憎しみ』を利用することさえ、計算に入れていたんだ。……俺に『憎め』と言ったのは、あんたを欺き、この隠し財産を最後まで守り抜くためのカモフラージュだったんだよ!」


その光は、セフィロトの黄金をも、透の黒い煤をも、等しく「透明」に塗り替えていく。 それは価値を奪う光ではない。 奪われすぎていた価値を、本来の持ち主へと強制的に「返還」する光。


「ナギ! 今だ、この帳簿のデータを、全域の黄金ネットワークに逆流させろ!」


「……了解! これなら計算できる……いや、計算する必要さえない! ただ『返す』だけだ!!」


ナギの指が、これまでにない速度でコンソールを踊る。 宇宙船のブリッジから放たれた蒼い光の柱が、空に浮かぶ「巨大な眼」を真っ向から貫いた。


「ぐ、あああぁぁぁッ!! 私の……私の完璧な均衡が……不純物(感情)で汚されていく……!」


天利の虚像が、泥のように溶け始めた。 同時に、透の肉体を繋ぎ止めていた蒼い粒子が、黄金の束縛を断ち切り、彼を「人間」の側へと引き戻していく。


だが、その代償は大きかった。 宇宙船のメイン・エンジンが、莫大なデータの逆流に耐えきれず、内部から爆発を開始したのだ。


「脱出するわよ! レン、ガモン、透を担いで!」


サキが叫び、崩落する天井から璃子を庇う。 だが、透の義手は、まだコンソールのレバーに「固着」したままだった。


「……みんな、先に行け。……この清算を最後まで見届ける『署名者』が必要なんだ」


「ふざけないで!!」 璃子が透の腰に抱きついた。彼女の痣が、今までで一番激しく、温かく脈打っている。 「一緒に帰るって……数字のない世界を一緒に見るって、約束したじゃない!」


透の視界が、白く染まっていく。 爆発の衝撃と、情報の奔流。 その狭間で、透は見た。 崩れゆく黄金の向こう側、かつて中央銀行で消えたはずの九十九が、一瞬だけ、満足げに微笑んで敬礼する姿を。


そして、宇宙船「始原の港」は、轟音と共にゴミの海へと沈んでいった。


【世界の違和感:メモ】

過払いされた人生: 健一が隠していた真の遺産。それはシステム側の不正(搾取)の証拠であり、それを返還することで「負債」という概念そのものを崩壊させた。

九十九の微笑: 彼はシステムの一部となりながら、最後の一撃を透に託していたのか。

宇宙船の沈没: 世界のルールをリセットした代償として、唯一の「原罪の記録」が失われようとしている。


現在のステータス: 神城 透

残高:【全人類へ返還完了】

信用スコア:【——】(項目自体が消滅)

状態:爆発の光に包まれ、生死不明。義手の「第3のチップ」が最後の鼓動を刻む。

同行者:璃子、サキ、ナギ、ガモン、レン(沈みゆく船から脱出を図る)


最終回(第36話)へ続く:【夜明け】一京円の価値と、僕らの署名

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