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『限度額ゼロの俺が最強なんだが、使うたび人生終わるんだが?』  作者: 比呂石 凪


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第4章:真価の夜明け(アウェイクニング・バリュー)第31話【露呈】砂の囁きと、暴かれる本音

「——誰も、触れるなと言ったはずよ」


レンの鋭い警告が、砂嵐の音を切り裂いた。 一行は、老人の塔を後にしてから数時間、遮蔽物のない「沈黙の砂丘」を進んでいた。背後では、あの錆びた塔が黄金の光に包まれ、ゆっくりと砂の海に沈んでいくのが見えた。


透の右腕は、今や「灰色の沈晶」と化している。 三十年分の「感情の預金」を解凍した代償は、あまりにも重かった。義手から漏れ出す不可視の波動が、周囲数メートルにいる仲間の精神を、まるで共鳴箱シンパサイザーのように震わせているのだ。


「……ごめん。わざとじゃないんだ」


ナギが顔を覆い、膝をつく。彼のデバイスは壊れているはずなのに、透の義手と共鳴し、頭の中に「見たくないデータ」が強制的に流れ込んでいるようだった。


「透……。あんたの腕から、あいつらの……ユニオンで死んでいった奴らの声が聞こえる。……嫌だ、思い出したくない。僕が……見捨ててきた、スコアの低い『友人』たちの顔が……!」


ナギの告白は、透の義手の中に眠る「見捨てられた者たちの未練」と重なり、歪なエコーとなって響いた。


「よせ、ナギ」 サキがナギを支えようとするが、彼女の手もまた、震えていた。 いつも冷静な彼女の瞳に、迷いが浮かぶ。


「……私もよ。……正義なんて、一度も信じてなかった。私はただ、執行官を殺すたびに、自分のカードに振り込まれる『返済の猶予』に安堵してただけ。……透、あんたが世界を壊した時、私は心のどこかで……あんたを恨んだわ。……楽な『監獄』を奪わないでくれって」


「サキさん……」


透は言葉を失った。 義手を通じて流れ込んでくるのは、情報の濁流だけではない。 「匿名預金」——それは、人々が自らを欺くため、あるいは生き抜くために切り捨てた「本音」そのものだった。 その力は、最も信頼し合っているはずのチームの「嘘」を、残酷に暴き出していく。


「……みんな、やめて」 璃子が、自分の胸を強く押さえながら割って入った。 彼女の白い痣は、今や虹色のノイズを放ち、透の義手と「同期」し始めている。


「これは、神城くんのせいじゃない。……この世界が、私たちに『本音を隠すこと』を強いていただけ。……私も……本当は……」


璃子の言葉が、不意に途切れた。 彼女の視線は、透の右腕——その奥に眠る「父のチップ」ではなく、そのさらに深層にある「何か」に向けられていた。


「……璃子?」


「……神城くん。……私、知っていたの。……お父様が、あなたの父親を裏切った時の……本当の記録を」


その瞬間、砂漠の地平線が黄金に輝いた。 感傷を切り裂くように、上空から「黄金の巡礼者」たちの偵察機が、サーチライトのような熱線を放ちながら旋回を始める。


「……内輪揉めは、死んでからにしなさい」 レンが、背負っていた大剣を抜き放ち、砂漠の闇を睨みつけた。


「来るわよ。……今度は、騎士エクスキュショナーじゃない。……セフィロトが放った『収穫者リーパー』——。私たちの『影』を実体化させる、精神汚染型の兵器よ」


レンの言葉通り、透たちの足元の砂から、どろりとした「黒い黄金」が這い出してきた。 それは、透がかつて右腕に宿していたノイズに似ていたが、より明確な殺意と、仲間たちの「醜い本音」の形を成して膨れ上がっていく。


「……親父が遺したのは、希望なんかじゃない」 透は、重い灰色の義手を、無理やり黄金の影へと向けた。


「これは……自分自身の汚さと向き合わせる、最低の『鏡』だ。……だが!」


透の義手が、再びクリスタルの輝きを取り戻そうと、激しく明滅する。


「……その汚い本音も全部ひっくるめて、俺たちが生きてる『価値』なんだろ! ……天利が言う『綺麗な統合』なんて、クソ喰らえだ!」


透が影を殴り飛ばそうとした瞬間。 義手の奥で、父のチップがこれまでで最も激しい警告音を鳴らした。


『——注意:【始原の港】への接近を確認』 『物理結界を突破します。……これより、この世界に「数字」が誕生する以前のことわりを適用』


空に浮かぶ「巨大な眼」が、透たちの頭上へと移動し、砂漠全体を黄金の「はかり」のような光で包囲した。


天利の、歪んだ笑い声が風に乗って聞こえてきた気がした。 『……いいぞ、透君。……もっと曝け出しなさい。……君たちが「個」であることを後悔するほどに、私たちの統合は、より甘美なものになるのだから……』


砂漠の夜が、彼らの「心」を食らい尽くそうと、牙を剥き始めた。



【世界の違和感:メモ】

感情の暴露: 透の義手が、意図せず周囲の人間の深層心理を暴いてしまう。これは「嘘」で成り立っていたユニオンの規約に対する、究極の対抗手段。

璃子の沈黙: 彼女が隠し通してきた「御影家」の罪。それが透との関係をどう変えるのか。

収穫者リーパー: 物理的な破壊ではなく、精神的な「綻び」を突いて、人間を自壊させるセフィロトの新兵器。


現在のステータス: 神城 透

残高:【未定義】

信用スコア:【計測不能】

状態:右腕の「共鳴シンパシー」が暴走中。仲間の負の感情をダイレクトに受けている。

同行者:璃子(独白を遮られる)、サキ(罪悪感の露呈)、ナギ(過去のトラウマ再燃)、ガモン、レン


第32話へ続く:【分裂】砂漠の鏡と、裏切りの価値

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