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『限度額ゼロの俺が最強なんだが、使うたび人生終わるんだが?』  作者: 比呂石 凪


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第3話【分割】3回払いの代償と、最初の依頼

「……これが、上層区の空気かよ」


透は、璃子の後を追って自動走行の高級リムジンから降り立った。 そこは、先ほどまで彼がいた薄汚れた路地裏とは別世界だった。街路樹は等間隔に配置され、空気は清浄機を通したかのように無機質で澄んでいる。行き交う人々がまとう服の一枚一枚に、透の半年分の生活費を上回るような『与信オーラ』が宿っていた。


璃子が足を止めたのは、全面強化ガラスで覆われた地上五十階建ての商業ビル「クレスト・タワー」の前だ。


「ここが私のプライベート・オフィスよ。……そんなに驚かないで。今のあなたに必要なのは、感嘆ではなく『支払能力』の証明だということを忘れないことね」


「わかってる。……で、最初の依頼ってのは?」


璃子は答えず、受付の読み取り機に自身のカードを滑らせた。 『VIP認証:ミカゲ・リコ様。ご同伴者1名。残高:照会不要』 その「照会不要」という無慈悲なまでの特権が、透の喉を渇かせた。


エレベーターが上昇を始める。静寂の中で、璃子がポツリと口を開いた。


「この都市には、表面上の信用スコアとは別に、『負の信用』が溜まる場所があるわ。カード会社が表立って手を出せない、不良債権の吹き溜まり。……そこにある『データ・チップ』を一つ、回収してきてもらいたいの」


「データ・チップ? 物理的なものか?」


「ええ。キャッシュ派やフィッシャーズが好んで使う、物理的な外部記憶媒体よ。電子化できないほどの汚れた情報。それが、第十四区の地下にある闇市スコア・マーケットに流れ着いたという情報がある」


透は眉を潜めた。第十四区。そこは先ほど璃子が口にした「非居住区」の入り口にあたる場所だ。


「……なんでそれを、御影の人間であるあんたが欲しがるんだ? 自分のところの『回収局コレクターズ』を使えばいいだろ」


「彼らはユニオンの『規約』に従って動く。規約通りに動けば、そのチップは回収された瞬間に暗号化され、ユニオンの議長……天利の元へ直接送られてしまうわ。私が欲しいのは、彼らの目に触れる前のデータよ」


璃子の視線が、透の胸ポケットにある白いカードに向けられた。


「あなたのカードは、さっき凍結を一部解除したけれど、そのままでは戦闘になれば即座に再凍結される。だから、これを使いなさい」


彼女が差し出したのは、小さなコインのようなチップだった。


「それは『分割決済用スプリット・プロトコル』のブースター。一時的にスキルの消費を『三回払い』に分割し、一回あたりの与信負担を軽減する。……ただし」


璃子の声が、少しだけ低くなる。


「分割には利息がつく。一回あたりの威力は落ちるし、二回目、三回目の支払日リキャストタイムが来るまで、あなたの身体には『負債の重圧デット・プレッシャー』がかかり続ける。耐えられるかしら?」


「……やらなきゃ、一週間後に消されるんだ。やるしかないだろ」


透はチップを受け取った。その瞬間、カードを通じて脳内に新しいシステムメッセージが響く。


『機能追加:3回分割決済。……警告、これによる総支払額は120%に上昇します。承諾しますか?』


「……っ」


承諾の念を込めた瞬間、透の身体にズシリとした「重み」が加わった。まだ何も決済していないのに、まるで泥の入ったリュックを背負わされたような感覚だ。これが利息——未来の自分を削る感覚か。


「いい顔ね。絶望を数字で理解し始めた顔だわ」


璃子は満足げに微笑むと、エレベーターを降り、大きな窓から都市の夜景を見下ろした。 その視線の先、遥か地上に、ひときわ暗い一角が見える。そこが第十四区だ。


「あそこへ行きなさい。案内役は手配してある。……それと、神城くん」


「なんだ」


「そのカード……さっき、執行官のカードを『斬った』時、何か違和感はなかった?」


透は一瞬、足を止めた。 路地裏に残された、あの黒い煤のようなカードの破片。 データの残滓のはずなのに、消えなかった「物理的な汚れ」。


「……ああ。カードが壊れたあとも、何かがそこに残ってた気がする」


「……そう。やっぱり、私の仮説は間違っていないのかもしれないわね」


璃子はそれ以上語らず、透に背を向けた。 その瞳に宿ったのは、透への期待ではなく、もっと大きな「何か」への冷徹な観察眼だった。


透は一人、タワーを後にした。 ポケットの中の一万円。そして、肩に食い込む「分割払い」の重圧。 第十四区へ向かう地下鉄の窓に映る自分の顔は、以前よりも少しだけ、血の気が失せて見えた。


(……俺の心臓の音、さっきから、変なリズムが混じってないか?)


ドクン、という鼓動に混じる、小さな、しかし確かな電子音。 それが、使いすぎた決済の副作用なのか、それとも。


「……おい、あんたが御影の『投資先』か?」


駅のホームで、フードを深く被った小柄な人物が透に声をかけてきた。 その手首には、ユニオンの規約を無視した「違法増設アタッチメント」の読み取り機が鈍く光っている。



現在のステータス: 神城 透

残高:10,000円(暫定枠 / 負債:468,300円)

信用スコア:Gランク(監視対象)

状態:身体的疲労(軽微)、分割利息(蓄積開始)、心拍数異常(ノイズ混入)


第4話へ続く:【リボ】終わらない返済の迷宮

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