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『限度額ゼロの俺が最強なんだが、使うたび人生終わるんだが?』  作者: 比呂石 凪


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第28話【賢者】錆びた塔の主と、失われた三十年

砂漠の熱風が、透たちの足跡を無情に消していく。 褐色の肌の少女——「レン」と名乗ったその少女に導かれ、一行は地平線にそびえ立つ「錆びた塔」へと辿り着いた。


それは、かつて宇宙へ通信を送るためのパラボラアンテナだったのか、あるいは巨大な掘削機だったのか。幾重にも鉄骨が継ぎ合わされたその塔は、黄金の蜘蛛たちが這い回る砂漠の中で、唯一「意志」を持って踏みとどまっている墓標のように見えた。


「……ここから先は、武器を預かってもらうわ。特にその『銀の腕』。……主の前で不穏な動きをすれば、あんたたちの心臓は一秒で止まる」


レンの警告に、サキは不服そうに唇を噛んだが、透は静かに頷いた。 今、この場所で抵抗しても意味はない。透の義手は、塔に近づくにつれて不規則な高周波を奏で、父のチップが「懐かしさ」を訴えるように熱を放っていたからだ。


塔の内部は、外観の荒廃からは想像もつかないほど、整然とした「書庫」となっていた。 ただし、そこに並んでいるのは本ではない。無数の、古びたハードディスク。それも、ユニオンが採用しているクリスタル形式ではなく、旧時代の物理的な磁気ディスクだ。


「……ナギ、あれ」 「……ああ。歴史の授業で見たことがある。ユニオンが『効率化』のために廃棄した、バックアップすら取られなかったなまの記憶装置だ」


ナギの目が、知識欲と恐怖で揺れている。 中央の円形広場。そこに、車椅子に深く身を沈めた一人の老人が、窓の外を眺めていた。 老人の全身は、透の義手よりもさらに無機質な「機械」に置き換わっており、かろうじて残った生身の顔の半分を、深い皺と白い髭が覆っている。


「……来たか。健一の『遺した負債』が」


老人の声は、錆びた弦を弾くような響きだった。


「あんたが、この場所の主か。……親父を知っているのか」


透が問いかけると、老人はゆっくりと車椅子を回転させた。その瞳は濁っていたが、透の銀の義手を見つめた瞬間、鋭い光を宿した。


「知っている? 酷い言いぐさだ。……私は天利あまり、そして健一と共に、あの忌々しい『ユニオン』というシステムに署名した最後の一人だ。……名前など、とうの昔にデータベースから削除されたがね。……今はただ、『老人オールドワン』と呼ばれている」


その言葉に、璃子が息を呑んだ。 「……そんな。ユニオンの創設メンバーは二人だけのはずよ。天利議長と、神城健一……」


「歴史とは常に勝者が書き換えるものだ、お嬢さん。……私は、システムが『リボ払い』に移行する際、その利息の計算が『人類の寿命』を超えると指摘して追放された。……健一は、それを承知で心臓コアになる道を選んだのだよ」


老人は震える手で、傍らにあった古いモニターを起動させた。 そこに映し出されたのは、三十年前の映像。 若き日の父・健一が、天利と、そしてこの老人と並んで、一枚の「契約書」に触れている姿だった。


「健一は、君という『次の署名者』が来るのを信じていた。……ユニオンが崩壊し、あの黄金の軍勢……『セフィロト』が動き出す、この瞬間をな」


「セフィロト……あいつら、一体何なんだ」


「ユニオンという嘘を管理していた、外側の監査機構だよ。……透君、君の父は、君に『一京円の負債』を背負わせることで、あるものを隠蔽したのだ。……天利さえも、完全には掌握できなかった『真実の担保』をね」


老人の言葉と共に、塔の地下から重厚な振動が響いてきた。 透の義手が、それに呼応して青白い雷光を放つ。


「……俺の中に、まだ何かあるっていうのか」


「ああ。……君の父が、三十年間ユニオンの心臓として、こっそりと積み立てていた『資産』だ。……それは黄金の蜘蛛たちにとって、何よりも忌むべき、そして欲すべきもの……」


その時。塔の入り口を守っていたレンが、叫び声を上げた。 「主! 奴らが……黄金の先遣隊が、塔の下層を突破しました! 今までの蜘蛛とは違う、人型の『執行体』です!」


モニターに映し出されたのは、黄金の光を纏った、翼を持つ騎士のような姿の機械。 それは、九十九をも凌駕するほどの「完璧な美しさ」を持った殺戮兵器だった。


「……透君。君の義手を、そのモニターの下の端子へ。……三十年待った『預金』の引き出しを、今ここで実行しろ」


老人が叫ぶ。 外では黄金の騎士が放つ熱線が、塔の外壁を溶かし始めていた。


「……ナギ、サキさん、ガモン! こいつらを中に入れるな!」


透は義手を端子へと突き刺した。 脳内を、これまでの負債のログを遥かに凌駕する、圧倒的な「純白の情報」が埋め尽くしていく。


『——プロトコル:【匿名預金アノニマス】を開封』 『蓄積期間:262,800時間。……内容:「感情」という名の未定義リソース』


透の視界の端。 剥がれ落ちた空のさらに向こう、宇宙に浮かぶ「巨大な眼」が、透を見つけたかのように大きく見開かれた気がした。



【世界の違和感:メモ】

第三の創設者: 天利と健一と共にシステムを作った老人の存在。彼が追放された理由が、物語の鍵を握る。

匿名預金: 健一が三十年間貯め続けていたのは、お金でもデータでもなく、システムから弾かれた「人々の感情」そのもの。

人型執行体エクスキュショナー: 蜘蛛よりも上位の、より高度な判断を下す黄金の敵。


現在のステータス: 神城 透

残高:【解凍中】

信用スコア:【聖域侵害】

状態:義手を通じて、三十年分の「感情の奔流」を受信。精神的負荷により鼻血。

同行者:璃子(老人の言葉に激しく動揺)、サキ、ナギ、ガモン


第29話へ続く:【預金】溢れ出した三十年と、騎士の翼

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