表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『限度額ゼロの俺が最強なんだが、使うたび人生終わるんだが?』  作者: 比呂石 凪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/36

第26話【侵食】黄金の巡礼者と、隔離壁の向こう

「——来るわよ!」


サキの鋭い叫びと同時に、黄金の機械蜘蛛セフィロトの「脚」が鉄塔の鉄骨を飴細工のように容易く切断した。 激しい金属音と共に、送信所の屋根がひしゃげ、火花が夜の闇を裂く。


「ガモン、ナギを連れて離れろ! ここは持たない!」


透は、コンソールから強引に引き抜いた銀色の義手を構えた。 まだ義手の表面には、旧式アンテナを通じて受信した九十九つくもの断片的なノイズが、微かな静電気のようにまとわりついている。


「ったく、カードが止まってんのに、なんでこんな化物だけ元気なんだよ!」


ガモンが舌打ちをしながら、ナギの襟首を掴んで瓦礫の陰へと飛び退く。 ナギは抱え込んだデバイスを死守しながら、震える声で叫んだ。


「透! その蜘蛛の脚……光の繊維に見えるけど、あれ、物理的な刃じゃない! 極小の『執行命令コマンド』が編み込まれた、高密度の情報生命体だ……触れたら君のログが書き換えられる!」


「ログの書き換え……? まるで、俺たちを一つの『データ』として修正しに来てるみたいだな」


透は冷汗を流しながら、黄金の蜘蛛の「眼」を凝視した。 蜘蛛の動作は、九十九のような武人の鋭さではなく、精密機械が不要なゴミを片付けるような、淡々とした作業タスクの連なりだった。


黄金の脚が、透の喉元を突く。 透は咄嗟に銀色の義手でそれを受け流したが、衝撃が走ったのは腕だけではなかった。


(……なんだ、これ。頭の中に……何かが流れ込んでくる……)


触れた瞬間、義手を通じて脳内に流れ込んだのは、膨大な量の「風景」だった。 ユニオンの都市こことは違う、見たこともないほど広大な砂漠。その砂漠を埋め尽くす、何千、何万という「黄金の蜘蛛」の行進。 彼らは何かを運び、何かを修復し……そして、この都市を「檻」のように取り囲んでいる。


「神城くん、避けて!」


璃子の叫びで、透は我に返った。 蜘蛛の腹部が不気味に発光し、第二射となる光の弾丸が放たれようとしている。 その時、透の右肩にある父・健一のチップが、かつてない強烈な振動を始めた。


『——警告:外部ネットワークからの「強制査定」を検知』 『対抗プロトコル:【不渡り(デフォルト)の署名】を義手へ転送……出力、最大』


「……俺の命を勝手に査定するんじゃねえ!」


透は、青白い火花を散らす義手を、蜘蛛の黄金の頭部へと叩きつけた。 本来、物理的なパンチで破壊できる相手ではない。 だが、触れた瞬間、透の義手から「黒いノイズ」が逆流し、蜘蛛の黄金の輝きを汚泥のように侵食し始めた。


『——エラー:負債情報の逆流を確認。……理解不能な「無価値」を検知』


機械蜘蛛が初めて、怯えるような不規則な挙動を見せた。 黄金の光が黒く変色し、蜘蛛の身体を構成していた繊細な光の繊維が、ボロボロと崩れ落ちる。


「……僕の義手が、あいつの『システム』を汚染してる……?」


「透、今よ! 仕留めて!」


サキが放った物理弾が、黒く変色し強度の落ちた蜘蛛の関節部を見事に撃ち抜いた。 バランスを崩した蜘蛛は、鉄塔から真っ逆さまに地面へと墜落し、派手な爆鳴と共に、ただの黒い鉄屑へと成り果てた。


静寂が戻る。 だが、勝利の余韻に浸る時間はなかった。 墜落した蜘蛛の残骸から、一筋のホログラムが空へと照射され、第十四区の壁際——都市を囲む「隔離壁」の向こう側を映し出したのだ。


「……見て。あれ……」


ナギが絶句した。 モニターを通さない、自分たちの目で見える「真実」。 そこには、隔離壁を越えて都市へと侵入しようとする、何百、何千という「黄金の光点」が、まるで巡礼者の列のように連なっていた。


「……あいつらは、一体……何なの?」 璃子の声が震える。


「……ユニオンのシステムが止まったことで、この都市の『存在価値』が失われたんだ」 透は、熱を持った義手を握りしめながら、隔離壁の向こうを睨みつけた。 「九十九が言いたかったのはこれだ。……今まで、ユニオンという『借金』が壁になってあいつらを防いでいた。でも、借金が消えた今、俺たちは外の連中から見れば、ただの『未回収の残土』に過ぎない……」


その時、透の耳の奥で、再びノイズ混じりの声が響いた。 それは、九十九のものではない。 もっと低く、重厚で、聞き覚えのある……しかし、決してここにはいないはずの男の声。


『……透。……扉を開け。……一京円の向こう側には、まだ「貸し」がある』


「……親父?」


透が虚空に手を伸ばそうとした瞬間、都市全域の空が、黄金の光に包まれた。 隔離壁の向こう側から、巨大な「鐘の音」のような轟音が響き渡り、都市を包んでいた灰色の雲が、一瞬にして消し飛ばされる。


「……行くぞ。隔離壁の向こうに、全ての答えがある」


透の視線の先。 黄金の軍勢が、ゆっくりと、しかし確実に「デフォルト・ランド」へと足を踏み入れようとしていた。


【世界の違和感:メモ】


黄金の逆汚染: 透の「無罪ゼロの署名」は、ユニオンだけでなく、その上位存在であるセフィロトをも侵食・破壊する性質を持つ。


健一の声: 透だけに聞こえる父の声。彼は「外」の世界でまだ生きているのか、それともシステムの一部として残響しているのか。


隔離壁の崩壊: 都市を外敵から守っていた(あるいは閉じ込めていた)最後の境界線が、物理的に突破されようとしている。



現在のステータス: 神城 透

残高:【無効】

信用スコア:【検知不能(特異点)】

状態:義手の出力不安定(黒いノイズの混じり)、父の「声」との部分的同調

同行者:璃子、サキ、ナギ、ガモン(※全員が隔離壁へ向かう決意を固める)


第27話へ続く:【境界】黄金の門と、砂漠の沈黙

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ