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『限度額ゼロの俺が最強なんだが、使うたび人生終わるんだが?』  作者: 比呂石 凪


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第25話【再起動】旧式アンテナと、虚空からの返信

第十四区の最果て。かつて「ゴミ捨て場」と蔑まれたこの場所には、ユニオンが都市を完全にデジタル管理に移行させる以前の、前時代の遺物が眠っている。


錆びついた鉄塔が、曇天を突き刺すように立っていた。 旧式の電波送信所。今の若者たちはその存在理由さえ知らないが、物理的な有線とアナログ電波で繋がったこの施設は、全域のネットワークが凍結した今、唯一「外」と繋がる可能性を秘めた場所だった。


「……ひどい有様。でも、かえって好都合かもね」


ナギが埃を払いながら、巨大なコンソールに手を置く。 彼のデバイスは機能していないが、物理的な配線を直接バイパスし、義手から供給される電力を流し込むための「工作」を始めた。


「サキさん、そのアナログ変換器を持ってて。ガモン、あんたは外で『取立人』が来ないか見張り。……透、右手をここへ」


透は言われるまま、銀色の義手をコンソールのコアへと差し込んだ。 父・健一のチップが、機械の深層を流れる微弱な電流を検知し、義手の表面に青いラインが走り始める。


「……ナギ、できるか?」


「僕を誰だと思ってるの。……『数字』を計算するのはユニオンのサーバーだけど、電気を流して信号を送るのは、僕ら人間の専売特許だよ」


ナギの指が踊るようにスイッチを切り替えていく。 ガコ、と重い音が響き、施設の地下で旧式のディーゼル発電機が喘ぐように産声を上げた。モニターがチカチカと点滅し、緑色の粗い走査線が走り始める。


その時、透の脳内に、チップからの「警告」とは異なる信号が流れ込んだ。 義手を通じて、施設全体が透の神経系と同期したような錯覚。


『——回線接続:物理レイヤー。……プロトコル:【幽霊の通信ゴースト・リンク】』


「繋がった! ……けど、これ……変だよ。ユニオンのバックアップじゃない」 ナギが驚愕の声を上げる。


「何が起きてるの?」 璃子が、モニターを覗き込んだ。 そこには、数字の羅列ではない「音声波形」が表示されていた。 今の世界では絶滅したはずの、アナログな人の声。


『……聞こえるか……。この……周波数を……拾える……者が……いるのなら……』


ザザッ、と激しいノイズが走る。 だが、その声を聞いた瞬間、透の背筋に氷を押し当てられたような衝撃が走った。


「この声……まさか……」


「九十九!?」 サキが叫ぶ。


あの日、中央銀行の十階で、透の負債に飲み込まれて消滅したはずの執行官。 だが、スピーカーから漏れる声は、あのアナログな死を目前にした時の「人間」としての九十九のものだった。


『……私は……システムの一部として……再定義された……。だが……天利は……もっと……恐ろしいものを……呼び覚まそうとしている……』


「九十九、生きてるのか! どこにいる!」 透がコンソールに向かって叫ぶ。


『……物理的な場所……など……ない……。私は……「黄金の蜘蛛の巣」の……一部になった……。透……「外」を見ろ……。この都市は……隔離された……巨大な……』


通信が途切れる。 代わりに、モニターに表示されたのは、第十四区の上空——先ほど透たちが見上げた、あの「黄金の眼」の座標データだった。


「隔離……? この都市が?」 璃子が唇を噛む。 「御影グループの資料にも、そんな記述はなかったわ。ユニオンはこの世界のすべてだと思っていたのに……」


「……違う。俺たちが住んでいたのは、巨大な『実験用金庫』の中だったんだ」 透は自分の義手を強く握りしめた。 「九十九が言おうとしたのは……俺たちが数字で遊んでいる間に、この『外』では別のルールが動いていたってことだ」


その時、施設の天井が激しく震えた。 見張りをしていたガモンが、血相を変えて飛び込んでくる。


「おい! 上を見ろ! さっきの略奪者どもより、よっぽどヤバいのが降りてきたぞ!」


一行が外へ飛び出すと、そこには異様な光景が広がっていた。 黄金の糸のような光を放つ無数の「細い脚」を持った、巨大な機械の蜘蛛。 それが、錆びついた電波塔に音もなく取り付いていた。


その蜘蛛の頭部には、あの「黄金の眼」の紋章が刻まれている。 それはユニオンの技術テクノロジーとは明らかに異なる、より有機的で、神話的な威圧感を放つ存在だった。


『——認識:不渡り個体、神城透。……及び、未清算資産の残党』 『処理:【全域回収】。……規約を超えた価値は、我々が再査定する』


蜘蛛から放たれた光の弾丸が、目の前の地面を穿ち、結晶化させた。


「……あいつ、俺たちを『人間』として見てない……。ただの『回収対象』だ」


透の義手が、激しい熱を帯びる。 チップが、かつてないほど鮮明な「署名」を要求していた。 だがそれは、天利への拒絶の署名ではなく、この新しく現れた「外の支配者」への宣戦布告。


「……ナギ、通信はまだ切るな! 九十九が言おうとした『外』の正体を、あいつから引きずり出してやる!」


透が、黄金の蜘蛛へと駆け出す。 だが、その背後の虚空には、さらに数十、数百という黄金の光点が、星のように瞬き始めていた。


【世界の違和感:メモ】


九十九の変質: 身体を失った彼は、新しい黄金のネットワークの一部として取り込まれたのか。


黄金の蜘蛛セフィロト: ユニオンの上位存在。彼らにとって、ユニオンの破綻は予定調和だったのではないか。


隔離された都市: そもそもこの都市が「外の世界」とどう繋がっているのか、その前提が覆され始める。



現在のステータス: 神城 透

残高:【無効】

信用スコア:【外敵認定】

状態:義手と旧式通信網の同期による、感覚の超拡大化

同行者:璃子、サキ、ナギ、ガモン


第26話へ続く:【侵食】黄金の巡礼者と、隔離壁の向こう

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