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『限度額ゼロの俺が最強なんだが、使うたび人生終わるんだが?』  作者: 比呂石 凪


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第21話【全損】議長の聖域と、最初の嘘

九十九という「規約の壁」を突き崩した先に待っていたのは、静寂だった。 中央銀行ユニオン・コアの最上階へ続く最後の階段を登りきると、そこには豪華な装飾も、最新鋭のセキュリティ端末も存在しなかった。


あるのは、ただ一面のガラス張りの円形広場。 だが、その「外」に見える景色は、もはや誰もが知る都市の夜景ではなかった。 剥がれ落ちた空の裏側から覗くのは、無数の光ファイバーが神経のようにのたうつ、赤黒い虚空。この世界の「皮膚」が、透の背負った一京円という質量に耐えかねて、至る所で千切れているのだ。


「……ようやく来たか。想定よりも数分、支払いが遅れたね」


広場の中央。背を向けて虚空を眺めていた男、天利議長がゆっくりと振り返った。 その手には、上質なクリスタルグラスが握られている。中に入っているのはワインではない。銀色に輝く、液状化した「純粋な信用データ」だ。


「天利……。あんたがこの世界の仕組みを作ったのか」


透は黒いノイズの腕を構えた。九十九を飲み込んだその腕は、今や透の意志とは無関係に、周囲の空間を「ゼロ」へと還元し続けている。一歩、足を踏み出すごとに、大理石の床にどす黒い足跡が刻まれた。


「私が作った? いや、透君。それは買い被りすぎだ」 天利は優雅に笑い、グラスを床に落とした。銀色の液体が広がり、そこに一つの巨大なホログラムが展開される。


「この世界……『ユニオン』というシステムそのものが、一つの巨大な、そして未完の『返済計画』なのだよ」


「返済計画……? 誰の、誰に対する借金だって言うんだ!」


透が叫ぶ。その時、透の隣で璃子が短く悲鳴を上げた。 彼女の胸元の痣が、天利の展開したホログラムと共鳴し、激しく発火したのだ。


「璃子!」 「だ……大丈夫……。でも、これ……。見覚えがあるわ。御影グループの極秘資料にあった、禁忌の会計報告書……」


璃子が震える指でホログラムを指差す。 そこに示されていたのは、世界人口、総資産、そしてそれらを遥かに上回る『外部負債』という名の、巨大なマイナスの項目だった。


「驚くことはない。人類はかつて、取り返しのつかない『負債』を抱えたのだ。資源の枯渇か、環境の破滅か、あるいはもっと形而上学的な罪か……。とにかく、このままでは種ごと清算デリートされるはずだった」


天利は、空の裂け目から見える赤黒い神経網を慈しむように見つめた。


「そこで先人たちは『嘘』をついた。この偽りの世界ユニオンを構築し、全ての価値を数値化し、カード一枚で人生を切り売りさせることで……その膨大な負債を、未来の子供たちへと『リボ払い』にしたのだよ」


「リボ払い……。世界そのものを分割払いにして、破滅を先延ばしにしたってのか!?」 ナギが裏返った声で叫ぶ。


「そうだ。そして、その『未払いの負債』を一身に引き受け、システムのバッテリーとなる"最初の債務者"が必要だった。……それが君の父親、神城健一だよ」


天利の視線が、透の右肩のノイズへと注がれる。 「君が今持っているその一京円の力。それは、父親が三十年間、この世界の破滅を食い止めるために払い続けてきた『血の利息』そのものだ。健一君は君を愛していた。だからこそ、君という器を作り、自分に代わってこの世界を……『永遠の借金』を背負わせようとしたのさ」


「嘘だ……! 親父が、俺を身代わりにするために……!?」


透の心に、鋭い亀裂が走る。 『カードを切るな。……いや、切るなら「本当の署名」を見つけろ』 父の言葉が、今や呪詛のように聞こえ始めていた。


「さあ、透君。最終審査の最終項だ」 天利が、透の前に一枚の真っ白なカードを差し出した。 それは何の装飾もない、虚無のような白。


「君がそのカードに署名サインすれば、一京円の負債は『完済』されたと見なされ、世界は真の姿を取り戻す。……ただし、担保として君自身の存在、そして君の友人たち、この街に住む全ての『数字』は、等しくゼロへと還元されるがね」


「……世界を救うために、全員死ねってことかよ」 サキが銃を構えるが、天利の周囲に展開された絶対与信の壁に、銃弾は触れることさえできない。


「あるいは、署名を拒否し、君が次の『心臓』となって地下三階へ戻るか。……どちらを選んでも、君にハッピーエンドなど存在しないんだ」


透の視界が、真っ赤なエラーメッセージで埋め尽くされる。 『——警告:存在の全損が進行中。選択まで残り、60秒』


透は隣に立つ璃子を見た。自分を信じてくれたナギとサキを、そして、最後まで貸しを作ったガモンを見た。 みんなの顔が、ノイズによって少しずつ歪み始めている。


「……親父。あんたは本当に、俺にこんな選択をさせるために、このチップを残したのか?」


透の左手が、右肩のノイズの中にあるチップに触れた。 その瞬間、今まで決して開かなかった「最終ロック」が、透の激しい感情に反応して静かに、しかし決定的に解除される音がした。


【世界の違和感:メモ】


世界の正体: ユニオンは人類の負債を隠蔽するための、巨大な「返済シュミレーター」に過ぎない。


神城健一の意図: 天利の言葉は真実か、それとも透を追い詰めるための最後の「嘘」か。


最終ロックの解除: 存在が消えゆく瀬戸際で、透だけがアクセスできる「規約外データ」が覚醒しようとしている。



現在のステータス: 神城 透

残高:-[オーバーフロー]

信用スコア:【ERROR: SYSTEM-GOD】

状態:身体の40%がデータノイズ化。父の遺した最終データへアクセス開始。

同行者:璃子(痣の共鳴中)、ナギ、サキ、ガモン


第22話へ続く:【無罪】本当の署名と、ゼロの向こう側

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