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『限度額ゼロの俺が最強なんだが、使うたび人生終わるんだが?』  作者: 比呂石 凪


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第20話【清算】九十九の最期と、剥がれ落ちる空

「一、〇〇〇、〇〇〇、〇〇〇、〇〇〇、〇〇〇……。壊れているな、その数字は」


九十九つくもの声は、もはやスピーカーから発せられる合成音声のように平坦だった。彼の肉体の右半分は、過剰な与信リソースの供給に耐えかねて真っ赤に加熱し、装甲の間から白い蒸気が吹き出している。対照的に、透の右肩から溢れる黒いノイズの腕は、周囲の光さえも飲み込み、輪郭を歪めていた。


「九十九……。あんたは『規約』の守護者じゃなかったのか。天利あまりに使い潰されるのが、あんたの望んだ清算かよ!」


透が吠える。一歩踏み出すたびに、フロアのタイルが「負債」に侵食され、砂のように崩れていく。


「望みなど、とっくに引き落とされている。……あるのは、確定した『執行』のみだ」


九十九が、自身の胸に突き刺したロングカードをさらに深く押し込んだ。 『——緊急規約:全額強制償還トータル・リコールを開始します』 『徴収対象:執行官・九十九の全生体ログ。……及び、当該エリアの構造維持データ』


「何……? 自分の命を、そのまま攻撃のコストに……!?」 ナギが悲鳴のような声を上げる。


九十九の全身が、超高出力の赤い光に包まれた。それは「信用」という名のエネルギーを、純粋な物理的破壊力へと変換する禁忌の術式だ。九十九が跳躍し、紅蓮の輝きを纏ったブレードを振り下ろす。


「死ね、神城透。世界を破産させるバグめ!」


「……やらせるか!!」


透は「黒いノイズの腕」を突き出した。 銀色の剣ではない。それは、一万人から徴収した「絶望」と、父から継いだ「一京円」という呪いが混ざり合った、形なき重圧。


赤い閃光と黒い闇が正面から衝突し、中央銀行ユニオン・コアの十階フロアが悲鳴を上げた。 衝撃波で窓が一斉に吹き飛び、外の世界が見える。だが、そこにあるはずの「青い空」は、剥がれ落ちる壁紙のようにボロボロと崩れ、その裏側に隠されていた無機質な「回路の地平」が露わになっていた。


「……空が、剥がれてる……?」 璃子が呆然と空を見上げる。 それは、都市そのものが「仮想の信用」の上に築かれた砂上の楼閣であることを、皮肉にも透の負債が暴き出していた。


「ぐ、あああぁぁぁ!!」


押し問答が続く中、透の右腕のノイズが九十九の赤い光を「食い」始めた。 負債が信用を凌駕し、九十九の存在そのものを「返済の一部」として吸収していく。


「九十九! あんたの『正義』は、こんな空っぽな世界を守ることだったのか!」


「……黙れ……。私は……規約に……従った……だけだ……」


九十九のバイザーが割れ、その奥にある「人間」の瞳が露わになった。 そこには、職務への忠実さとは裏腹な、深い後悔の色が滲んでいた。 彼は、かつて健一が銀行を襲撃した際、その「署名」の正体に気づきながらも、組織のためにそれを隠蔽した当事者の一人だったのだ。


「……神城……透……。……あいつに……天利に、伝えろ……。……借金の利息は……いつか、自分自身に……回ってくる、とな……」


九十九の身体が、一瞬だけ白く輝き、そして——。 透の黒い腕に完全に飲み込まれ、消滅した。


『——決済完了。……対象:九十九の全与信を回収しました』 『負債額が更新されました……。……計算不可。……特異点が拡大しています』


静寂が戻ったフロアで、透は崩れ落ちた。 右腕のノイズは九十九を喰らったことで、より禍々しい「黒い義手」のような実体を持って定着している。


「……九十九……」


透は、彼が最後に遺した、焦げ付いた一枚のカードの破片を拾い上げた。 そこには、どの執行官のデータにも載っていない、手書きの「名前」が薄く記されていた。


「……みんな、大丈夫か?」


「……何とか。でも、ビル自体が持たないよ。透の負債のせいで、物理演算が狂い始めてる」 ナギが、歪み始めた壁を指差す。


サキとガモンも満身創痍だった。ガモンは、透の黒い腕を畏怖の目で見つめ、一歩距離を置いている。


「……神城くん。行きましょう。最上階は……もうすぐそこよ」


璃子が透の手を取る。 彼女の痣も、透との共鳴によって不気味に色を変えていた。 二人が見上げる先。階段の踊り場には、これまでのような執行官の姿はもうない。 ただ、一枚の「真っ白な招待状」が宙に浮き、最上階へと彼らを誘っていた。


透たちは歩き出した。 一歩、また一歩。 自分たちが歩くたびに、世界から色が消え、数字が消え、意味が消えていく。 その先に待つのは、救済か。それとも、世界そのものの「破産宣告」か。


【世界の違和感:メモ】


剥がれる空: 都市の外殻が破損し、世界の「物理的実体」が疑われ始めている。


九十九の遺言: 天利もまた、何らかの「利息」を支払わされている可能性。


黒い義手: 負債が物理的な肉体を代替し始めた。これは透の「人間性」が失われていく前兆でもある。



現在のステータス: 神城 透

残高:-[測定不能](※一京円を超え、システムの計測限界に到達)

信用スコア:【ERROR: WORLD-BREAKER】

状態:右腕が「黒い負債の腕」として実体化。世界のテクスチャに対する干渉能力を獲得。

同行者:璃子、ナギ、サキ、ガモン


第21話へ続く:【全損】議長の聖域と、最初の嘘

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