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『限度額ゼロの俺が最強なんだが、使うたび人生終わるんだが?』  作者: 比呂石 凪


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第18話【破産】一京円の心臓と、天利の招待状

「一、十、百、千、万……おい、桁がバグってて読めねえぞ。これ、この世に存在する数字かよ……」


ガモンの掠れた声が、地下404号室の白い静寂に虚しく響いた。 モニターに表示された「一京円」という天文学的な負債額。それはもはや、個人の借金という概念を通り越し、一つの国家、あるいは惑星そのものの価値をマイナスへ叩き落とす絶望の質量だった。


透の右肩、完全に消失したはずの断面からは、依然として黒いノイズが霧のように立ち昇っている。 だが、その霧の中心に埋め込まれた父・健一のチップが、まるで独立した心臓のように「ドクン……ドクン……」と脈打っていた。その鼓動のたびに、透の視界には「一京」という数字が、血の戒律のように刻み込まれる。


「……あ、あはは。一京……。ユニオンの全通貨発行量が約三千兆円だから……世界を三回破産させても、まだ足りないね……」


ナギが乾いた笑い声を上げながら、ガクガクと膝を震わせた。 サキは銃を構えたまま、その場から一歩も動けない。管理官の男が放つ「原初の負債」の余波が、彼女たちのカードに異常な高金利の負荷を与え続けていた。


「……神城、くん……。どうして、こんな……」


左腕の中で、璃子が意識を取り戻した。 彼女の瞳には、救い出された安堵よりも、透が背負ってしまったものの大きさに向けられた「恐怖」が勝っていた。彼女の手が、透の消えた右肩の空間を震えながらなぞる。


「……気にすんな。……こうしなきゃ、あんたのカプセルは開かなかった」


「でも、これは……『死』より重い契約よ。一京円の負債を負った人間は、ユニオンの規約上、存在するだけで周囲の『信用』を汚染し、消滅させる『特異点』になる……」


「——その通りだ。今の君は、歩くパンデミックと言ってもいい」


債務管理官の男が、砕け散った石碑の破片を踏みしめながら、透へと歩み寄る。 男の顔を覆う痣は、透との衝突を経て、さらに深く、暗く変色していた。


「神城透。君が彼女のために払った『代償』は、天利議長が用意したこの街のシステムを、根底から腐らせ始めた。……今、上層区では何百万もの市民のカードが原因不明の『残高減少』を起こし、暴動が始まっているよ」


「……何だと?」


「君が背負った一京円という負債を維持するために、システムが周辺から強制的に『信用』を吸い上げているのさ。……君が生きているだけで、他人が死ぬ。……素晴らしい『神の支払い』じゃないか」


透は戦慄した。 自分が救おうとした世界が、自分の存在そのものによって食いつぶされている。 父・健一は、本当にこんな結末を望んで、自分を「決済専用の命」として遺したのか。


その時、虚空に黄金の光が収束し、一通の「ホログラムの封筒」が形成された。 封筒の表には、ユニオン議長・天利の紋章が刻まれている。


『——やあ、神城透君。そして、御影の愛しき令嬢』


封筒が弾け、天利の穏やかで冷徹な声が響き渡った。


『一京円の負債(心臓)を引き受けるとは。……健一君の息子として、期待以上の「狂気」を見せてくれた。……現在、ユニオン・コア周辺には、君を「世界の病」として排除するための執行官が一万人集結している』


「一万人……冗談だろ」 ガモンが真っ青な顔で天井を仰いだ。


『だが、私は慈悲深い。……君に最後の「審査チャンス」を与えよう。……中央銀行の最上階、私の執務室へ来たまえ。……もしそこへ辿り着けたなら、その一京円の負債を帳消しにする「唯一の契約書」に署名させてあげよう』


「……罠だ。行くわけないだろ!」 サキが叫ぶ。


『……拒否すれば、第十四区を含めた下層居住区の全電力を五分以内に遮断する。……暗闇の中で、何万人の負債者が野垂れ死ぬことになるかな?』


天利の声は、そこで途切れた。 同時に、404号室を包んでいた白い防壁が消え、回廊の奥からは、無数の執行官たちが放つ「清算の足音」が迫ってくるのが聞こえた。


「……行くしかない、みたいだな」


透は璃子を優しく地面に下ろした。 消えた右腕の場所で、父のチップが激しく熱を帯びる。


「……ナギ、サキさん、ガモン。……ここから先は、俺の個人的な『返済』だ。あんたたちは——」


「バカ言わないで。あんたの負債は、もう僕たち全員の負債だよ。……一京円なんて、一人で背負わせるわけないでしょ!」


ナギが涙を拭い、自作デバイスの最大出力を解放した。 サキは黙って銃の弾倉を入れ替え、ガモンは「……ケッ、貸しにしとくぜ、一京円分な」と笑った。


璃子が、透の左手を強く握りしめた。 「……私も行くわ。御影わがやが作ったこの歪なシステムの、終わらせ方を見届けなきゃいけないから」


透は頷いた。 目の前のエレベーターの扉が開き、地上——天利の待つ頂上テッペンへと続く道が示される。


だが、透は気づいていた。 右肩の断面から立ち昇る黒い霧が、少しずつ、周囲の物質を「侵食」し、自分たちの足元の床さえも「ゼロ」へと変え始めていることに。


(天利……あんたが何を企んでいようが関係ない。……俺は俺のやり方で、このクソみたいな勘定を終わらせてやる)


『——最終審査・カウントダウン:残り39時間』


【世界の違和感:メモ】


信用汚染: 透の負債が大きすぎるため、周囲の他人の「信用」を自動的に徴収ドレインし始めている。


天利の目的: 排除ではなく「招待」。一京円の負債を背負った透を、最上階に呼ぶ真意とは。



現在のステータス: 神城 透

残高:-1,000,000,008,200,000円(※常に周囲から強制徴収中)

信用スコア:【GOD-DEBTOR(存在自体が災厄)】

状態:右腕の根元からの消失、周辺物質の「負債侵食」が開始

同行者:璃子(復帰)、ナギ、サキ、ガモン


第19話へ続く:【徴収】一万人の執行官と、泥濘の階段

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