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『限度額ゼロの俺が最強なんだが、使うたび人生終わるんだが?』  作者: 比呂石 凪


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第17話【差押】管理官の宣告と、魂のトレード

「決済専用の……命……?」


透の喉から、掠れた声が漏れた。 視界の中、空中に投影された赤いダイアログボックスが、鼓動に合わせて不気味に明滅している。それは救済の提案ではなく、魂の「競売」の開始合図だった。


『要求:神城透の「存在権利」を、御影璃子の解放と引き換えに差し押さえます。承諾しますか?』


「ふざけるな。親父が……神城健一が、俺をそんなもののために作ったなんて、信じられるかよ!」


透は、感覚を失ったはずの右腕があった空間を、強く、強く握りしめた。 そこにあるのは虚無だが、父から託されたチップの熱量だけは、今も掌に焼き付いている。


「信じる信じないは自由だ、少年。だが、現実は常に数字で示される」


債務管理官の男は、顔の半分を覆う痣の「蔓」をピクリと震わせ、石碑に嵌まった琥珀色のカードを指差した。


「君という存在の時価総額は、現在、彼女が背負った負債とほぼ同等だ。君が自分自身を『入金』すれば、彼女のマイナスは相殺オフセットされ、このカプセルは開く。……それがこの場所、404号室の唯一の契約形態だ」


「……待って……神城くん、ダメよ……!」


カプセルの中で、璃子が弱々しく首を振る。コードに繋がれた彼女の指先が、ガラスの内側を虚しくなぞった。


「私の……負債は……私が支払う……。あなたは、その……『鍵』を、そんなところで……捨てちゃ……」


「黙っていろ、不良資産」 管理官が冷淡に言い放つ。 「君の意志に、もはや決済能力はない。選ぶのは、この少年だ」


沈黙が回廊を支配した。 背後では、サキが銃を構えたまま動けず、ガモンは老人の放つ「原初の負債」の威圧感に、脂汗を流して膝をついている。ナギだけが、必死にデバイスを叩き、この絶望的な規約を突破する「バグ」を探していた。


「……ナギ、どうだ」 透が低く問いかける。


「……無茶だよ、透。ここはユニオンのネットワークの外なんだ。ハッキングどころか、書き換えようとした瞬間に、僕のデバイスごとの存在が『清算デリート』されそうになる……!」


ナギの声が絶望に震える。 透はゆっくりと、自分の白いカードを見つめた。 そこには父のサインが血の色で刻まれている。 『カードを切るな。……いや、切るなら「本当の署名」を見つけろ』


(……もし、俺が親父の利息を払うために用意された「器」だっていうなら。……このカードそのものが、俺の命そのものだってことか)


透の脳裏に、第11話でキャッシュ派のサキから受け取った「硬貨」の感触が蘇る。 あの時、カードは規約外の「物理的価値」に反応した。


「……管理官。あんたは『自分自身を入金しろ』って言ったな」


「そうだ。君の全ログ、全記憶、全肉体……それをユニオンの根源に捧げろ」


「いいだろう。……だったら、俺自身の『値段』は、俺が決める」


透が右手の「虚空」を、石碑の溝へと突き刺した。


「なっ……何を!?」 管理官の目が驚愕に見開かれる。


「俺の命を差し押さえるっていうなら……その契約、リボ(分割)じゃなく、『即時決済』で受けてやる。……ただし、俺の時価総額が足りないなんて言わせねえぞ!」


透は、自分の中の「痣」を、無理やり右腕の断面へと誘導した。 心臓を、血管を、魂を削り取るような激痛。 黒い炎が、透の右肩から噴き出し、琥珀色のカードへと流れ込む。


『規約違反:債務者による自己評価額の強制引き上げを検知』 『——警告。……警告。……神城透の価値が、現行レートを逸脱しています』


「お、おい! 透! あんた、自分の魂を燃やして『チャージ』してんのか!? バカな真似はやめろ、霧になって消えちまうぞ!」 ガモンが叫ぶが、透の勢いは止まらない。


石碑に投影された文字が、猛烈なスピードで書き換わっていく。 八百万、一千万、一億……。 透の右肩から先が、ボロボロとデジタルノイズとなって剥がれ落ちていく。


「……これが、俺の……『署名』だ!!」


透が吠えた瞬間、石碑が眩い橙色の光を放ち、爆発した。 管理官の男が防壁を展開するが、その衝撃波に押し戻される。


『——決済完了。……御影璃子の負債、全額相殺を確認』 『カプセルのロックを解除します』


プシュッ、と不快な蒸気が吹き出し、璃子を閉じ込めていたガラスが開いた。 力なく崩れ落ちる璃子を、透は残された左腕で抱きとめた。


「……ハァ……ハァ……。……捕まえたぞ、璃子」


「……バカ……。本当に、バカね……」


璃子の瞳から、涙が溢れ出す。 だが、勝利の余韻はなかった。 石碑の光が収まった後、そこには——さらに巨大な「絶望」が姿を現したからだ。


琥珀色のカードが砕け散り、その破片が空中で再構成される。 それは、透が持っている「白いカード」と対をなすような、禍々しい漆黒のカード。


『——原初の債務者、神城健一の「未清算分」が再定義されました』 『新規負債額:—— 1,000,000,000,000,000円(一京円)』


「……なっ……」


ナギがモニターを見て、白目を剥いて卒倒しかけた。 一京。この世界の全通貨をかき集めても足りない、天文学的な「負債」。


管理官の男が、煤けた顔で立ち上がり、冷たく笑った。 「……見事だ、少年。彼女を救うために、君は『世界の破滅』に等しい利息を呼び覚ました。……それが健一君の遺した、真の呪いだ」


部屋の奥から、さらなる「扉」が開く音が聞こえる。 それは地下三階のさらに下。 ユニオンの議長、天利が最も隠したかった、この世界の「本当のエンジン」へと続く道だった。


透は意識が遠のきそうになりながらも、璃子を抱きしめたまま立ち上がった。 右腕は、肩の付け根まで完全に消滅している。 だが、その消えたはずの場所で、父のチップが——心臓のように脈打っていた。


【世界の違和感:メモ】


一京円の負債: 個人が背負える限界を遥かに超えた数字。これが世界の「価値」を支えている。


透の身体: 右腕の消失と引き換えに、石碑の「原初の規約」を一部上書きした可能性。



現在のステータス: 神城 透

残高:-1,000,000,008,200,000円(※世界規模の負債を承継)

信用スコア:【GOD-DEBTOR(神級債務者)】

状態:右腕の根元からの消失、璃子を救出、極度の「存在の不安定化」

同行者:璃子(救出・意識混濁)、サキ、ガモン、ナギ


第18話へ続く:【破産】一京円の心臓と、天利の招待状

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