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アザトースの産ぶ声

作者: 嶺月
掲載日:2025/12/04

SFなのかファンタジーなのかクトゥルフなのか

もちろん現実の科学としてはとても成立しないのですが

 その恒星は平凡な銀河の辺境でごく平凡な主系列星として成長し、至極平凡に赤色巨星へと脱皮して最後は平々凡々な白色矮星(はくしょくわいせい)となって宇宙の行く末をすこぶる平凡に傍観(ぼうかん)するか、あるいはさらに平凡に新たな星の母体となるかを選び取る(はず)だった。

 ところが彼の生涯はその青年期の終わりに、劇的な変動と共に宇宙の表舞台で上演されることになる。

 カオス理論の悪戯(いたずら)…いちどきに彼を成り立たせていた水素とヘリウムが中心核向けて集結し、将来はブラックホールになりおおせる程の恒星でも起こり得ない、大規模核融合が発生したのだ。

 その結果生まれた原子番号286、原子量に至っては1000をも上回る超々重元素は、旺盛(おうせい)な食欲に任せてかつての兄弟だった周囲の水素原子を瞬く間に食い荒らしてさらに巨大化した。彼の食指はより遠く深く…他の恒星系、銀河系にまで伸びはじめ、彼は宇宙の中心的存在へと変貌(へんぼう)()げる。

 そこまでが確率論=神の許す肥大化の極点だとしたら、(ある)いは彼にとっての幸せだったかもしれない。しかし冒涜的(ぼうとくてき)奇蹟(きせき)(とど)まる所を知らなかった。

 彼の挙動に応じて星系や銀河系をスイングバイして加速し続ける従順な星間物質たち。彼らはいかなる神秘が(もたら)したのか、一定の規則に(のっと)って多角往復を始める。無数の星々を結節点として流動する物質群。

 彼…とある知的生命体の記述に敬意を表してアザトースと名乗ったかつての主系列星は宇宙を感じ始めた…


 既知宇宙唯一最大の星間生命体アザトースにも克服できないものが有った。彼は惑星に張り付くしか能のないいくつかの弱小な生命体の記録から、自分の心を(さいな)むトゲを孤独と呼ぶこと、いかに強大な肉体を誇ろうともその精神はありきたりの炭素系生命体と等しい事を学んだ。

 それでも良い、この広大な揺籠(ゆりかご)を独占できるのだから。

 特権意識と諦念の入り混じった境地に差し掛かった彼は、それまで脆弱(ぜいじゃく)な微小生物のものと遠ざけていた、哲学や文学に触れて永遠の無聊(ぶりょう)(なぐさ)めようと試み始めた。

 互いに連絡しない文明間に共通する現象、逆に個々の種族特有の視点などを比較研究する中で興味深い文献(ぶんけん)を発見したアザトース。

 全く同じ経路で神経系が反応するのならば、それは自分の完全なコピーとみなしても構わないという、やや荒唐無稽(こうとうむけい)な思想。

 宇宙は永遠の静寂(せいじゃく)の中で膨張(ぼうちょう)する一方で、限界まで引き延ばされた「無」を苗床(なえどこ)にして新たなビッグバンが生まれ、その新しい宇宙卵には親宇宙の歴史が刻み込まれている可能性。

 彼は永久の無為なる微睡(まどろ)みの中で新生した宇宙の夢を見る。

 再びアザトースが…そして自分の存在情報を呼び水に成立した同じスケールの星間生命体が闊歩(かっぽ)する、混沌と活気の満ちた明日を。

定説となっている宇宙の熱的死という予測を覆す発見が近年なされたそうです

不勉強で詳細はまるで理解できていないのですが、均衡宇宙論には無常観を揺るがす力を感じました


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