処分
「ーーー父上! 聞いてくださいましたか! 俺はついに、あの『無能』を追い出してやりましたぞ!」
国王の私室に、第1王子クレイグの興奮した声が響き渡る。
彼は、夜会での婚約破棄劇を、まるで魔物を討伐した英雄のように、意気揚々と父王に報告していた。
「おお、クレイグか」
国王は、酒の入ったグラスを片手に、面倒くさそうに、しかしどこか楽しそうに息子を見た。
「夜会で公衆の面前で、でか。なかなか派手にやってくるのぉ」
「はい! あのヘロディアの【光の天使の祝福】の神々しさ! それに引き換え、エミリアの無様な顔! 王家に従順でない貴族どもも、ようやくアバロニアの『未来』を理解したことでしょう!」
その横で、無言で剣の手入れをしていた第2王子が、初めて顔を上げた。
「兄上、やりますな! 俺もあの女、陰気で気に食わなかったんですよ!」
「だろう!」
クレイグと第2王子が、下品に笑い合う。
国王は、その愚かな息子たちを止めるどころか、満足げに眺めていた。
「ふむ。だが、王家から追い出したのは良いが、あの『無能』をどう処分するか。メイフィールド侯爵家に突き返しても、お前の元婚約者が王都に居座られるのは目障りだ」
国王が、まるで不要な家具の捨て場所を考えるかのように、顎に手を当てた。
「いっそ、遠方の修道院にでも幽閉しますか?」
「いや、それでは生ぬるい。いっそ俺の騎士団の『的』にでも…」
国王と息子たちが、エミリアの「処分」を、ただの「遊び」として楽しそうに話し合っている。
その時だった。
それまで、兄たちの会話を黙って聞いていた第3王子が、初めて口を開いた。
「父上、兄上。よろしければ、一つ提案が」
「ん? なんだ」
国王は、政治に興味がなく、いつも自分や兄たちの会話にいつも「ええ、そうですね」と迎合する三男坊に、珍しいという視線を送る。
第3王子は、父や兄たちに心酔したような笑みを浮かべながら言った。
「兄上が公衆の面前で『恥』と断罪した女を、中途半端な場所に送るのは、生ぬるいのでは?」
「…と言うと?」
クレイグが、興味深そうに眉を上げた。
第3王子は、最も残酷な「遊び」を思いついた子供のように、無邪気な顔で言った。
「かの『残虐非道』の、カイル・ヴァイスハルト辺境伯に嫁がせてはいかがでしょう」
その名が出た瞬間、国王とクレイグ、第2王子の顔が、ニヤリと歪んだ。
「カイル卿は、王家の命令を無視し、『忌み子』の処分も遅々として半分ほどしか進めず、我々アバロン王家を侮っています。魔物や無法者の傭兵が多い彼の領地は、王都の『ゴミ捨て場』も同然!あの男に、兄上が捨てた無能な嫁を押し付けるのは、最高の嫌がらせになりましょう。厄介者同士、似合いかと」
沈黙が落ちる。最初に破ったのは、クレイグだった。
「…ハ、ハハハ! 素晴らしい! それは名案だ!」
クレイグは手を叩いて喜んだ。
「あの傲慢なカイルめ! 俺の『お古』を押し付けられるとは、最高の屈辱だろう! 無能な女と、残虐非道な男! まさに似合いの夫婦だ!」
国王も、その『辺境伯への嫌がらせ』というアイデアに、満足げに頷いた。
辺境を魔物の侵攻から守る辺境伯の私軍は国家にとって必要不可欠であったが、同時に国軍に匹敵する屈強な軍事力を持つ辺境伯領を王家は脅威と感じていたのだ。
「…ふむ。お前の言う通りだ。有能な女を娶られては奴の脅威が増すだけだが、『無能』であれば都合が良い。メイフィールド侯爵家も、相手が辺境伯では文句は言えまい。これで『厄介払い』は完了だな」
「よし、決定だ。エミリア・メイフィールドを、カイル・ヴァイスハルトに嫁がせる。すぐに王命を用意しろ」
「ハハハハハ!!!完璧だな!!!」
(…これでいい)
第3王子アーサーは、兄たちの愚かな高笑いを聞きながら、誰にも気づかれぬよう、静かに息を吐いた。




