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婚約破棄

書き溜めありです。よろしくお願いします。

「今この場をもって、私とエミリア・メイフィールドとの婚約を破棄する!」



甲高い声が、広間の喧騒を突き刺した。

アバロニア王国の第1王子、そして私の婚約者でもあるクレイグ・アバロン様の声だ。


「え…?」

(…何を、言っているの?)


頭が真っ白になる。

私はほんの数分前まで、侯爵令嬢、そして「王太子の婚約者」としての完璧な笑顔を貼り付け、「王太子の婚約者」という重い役を、ただ必死に演じていた。

その私が、今、アバロニア王国の名だたる上流貴族たちの前で、指を差され婚約破棄されている。



◇◇◇



その日は何でもない夜会のはずだった。上流貴族のみが参加するが、特に何の変哲もない夜会。

いつも通り婚約者であるクレイグ様と入場し、王太子妃という「立場」とお近づきになりたい貴族と当たり障りのない会話をし、時間を潰す。

そのはずだったのに。


「皆、静粛に!」


不意に、あれほど耳障りだった喧騒が止んだ。

クレイグ様が、広間の中央に進み出て、叫びだしたのだ。

広間の注目が一点に集まるのを待って、彼は満足げな笑みを浮かべた。

その隣には、やや小柄な女性が寄り添っている。


(…あのお方は?)


私が不思議に思っていると、クレイグ様が言葉を続けた。


「今宵は、我がアバロニア王国の『未来』にとって、重要な日となる!」


クレイグ様の言葉に応えるように、隣の女性がスキルを発動した。

それは、光だった。

太陽のような温かさも、蝋燭の炎のような揺らぎもない、ただ純粋な光。

まるで磨き上げられた鏡が放つ反射光のような、完璧で、無機質で、冷たい光が、彼女の背中から翼のように溢れ出した。


「彼女のスキルは『光の天使の祝福』!我が国は天使の祝福を受けたのだ!!」


その『神々しい』光景に、貴族たちが息をのむ。


「おお…! なんという神々しさだ!」

「まるで…まるで『聖女』様のようだ!」


貴族たちの興奮した声が、広間を満たす。

その女性は、その「聖女」という呼び声に満足げに微笑み、クレイグ様は恍惚とした表情で叫んだ。


「見たまえ、諸君! これぞ、我が国を導く真の『祝福』! 彼女、ヘロディアこそ、我がアバロニアの宝である!」


(素晴らしいわ…)

私は、その光景を素直に称賛しようとしていた。

ーーー彼が、私を指差すまでは。



「それに引き換え、エミリア・メイフィールド!」



突然、自分の名前を呼ばれ、私は凍りついた。

クレイグ様の声が、不協和音のように響く。


「お前の『精霊の祝福』とやらはどうだ!お前が20歳になった今日まで、我が国に何の利益ももたらさなかったではないか!」


「我が隣に立つ、天使に祝福された彼女こそが我が国の宝であり、お前のような期待外れの無能スキルを持つ女は将来の妃にふさわしくない!

今この場をもって、私とエミリア・メイフィールドとの婚約を破棄する!

そして彼女ヘロディアと婚約し、我が国を栄光へと導くのだ!!!」


(…何を)

(今、ここで?)


私の固有スキルが『精霊の祝福』だと判明したのは12歳の時。精霊に祝福された上流貴族の女性を王家に取り入れたいという王家の命で、その後すぐに皇太子の婚約者となった。

しかしそれから8年、20歳になった今も、私のスキルは中庭の古木を少し元気づける程度のことしかできない。

クレイグ様の私への視線が、日増しに冷たくなっていたことには、気づいていた。

けれど、突然、こんな場所で婚約破棄してくるとは――。


周りの貴族たちから、抑えきれない嘲笑が漏れる。彼らも私の婚約の経緯と、スキルが開花しないことを知っているのだ。

私は、血の味がするほど唇を強く噛みしめた。


(…でも、反論できない)


突然の仕打ちに驚愕しながらも、私の心は冷静に納得していた。

クレイグ様の言う通り、私は「無能」なのだ。

王家の期待を裏切った。

だから、この理不尽な仕打ちに反論する言葉を、私は何一つ持っていなかった。


クレイグ様が、長年の鬱憤を晴らすかのように、顔を赤らめて叫んだ。


「お前のような『無能』が、これ以上俺の婚約者として、俺の隣に立つことは許さん! アバロニア王国の恥だ!」


「衛兵! 何をしている! この女をつまみ出せ! もう二度と俺の前に顔を見せるな!」


「まあ、メイフィールド侯爵家も終わりね」

「こんな公衆の面前で…」


貴族たちの心無い囁き声が、私の心を貫く。


私は、ドレスの裾を握りしめ、誰にも涙を見せないよう、必死に顔を上げ続けた。

衛兵に腕を掴まれ「連行」される私に背を向けて、貴族たちは何事もなかったかのように、再び軽薄な噂話(喧騒)に戻っていく。



王都の冷たい夜風が、頬を撫でていった。


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