『幸せ』の定義
家族の繋がりの物語。貴方は日々の喧騒で家族の繋がりを疎かにしていませんか?是非、たくさんの人に目を通していただけると幸いです。
愛花は食事中毎日、色々なことを話してくれた。学校で育てていたミニトマトに実がなったこと、好きな給食のメニュー、プリンのじゃんけんに負けて悔しかったこと、野良猫を追いかけた先に猫の溜まり場があったこと、プリキュアになりたいこと、ダンゴムシがかわいかったこと、きれいな形でうんちが出たこと。
話の順番はめちゃくちゃで拙いが、出来事を話してくれることが何よりも嬉しかった。そして、そんな愛花の話は食卓に笑顔を運んでくれる。俺の母さんも、こんな気分だったのかな。
ある日、優真は俺に料理の作り方を学びたいと言ってきた。
「急にどうした?」
「中学生になったら、弁当が始まるんです。そこまで迷惑かける訳にはいきませんよ」
「ほんとかぁー?最近かなり打ち解けてきて、遠慮し合わない関係になってきたと思ったんだが...俺の勘違いだったか?」
「違う!違いますよ...」
「なら、本心は?」
「妹に、愛花に僕の料理を食べてもらいたいから...愛花には内緒ですよ...そして、日々のご飯も任せてもらって、ゆくゆくはこの家庭全てを支えたい!」
「な、お前はお前のやりたいことを...!」
「これが僕のやりたいことです!!それに、あなたにもやりたいことがある。そうですよね?」
「....!!」そうだ、その通りだ。新しい生活が始まって約2ヶ月。俺は仕事に就かずに、最終的なゴールも決まらず、ただただ社会福祉の勉強を振り返ってるだけだった。もう一度、目指してみるか。やるなら本気で!
俺はその日から、本気で栄養士、保育士の勉強を始めた。夢の果てはまだ定まってない。でも、微かに見えてきてる。俺は仕事しながら勉強することにした。就いた職は市役所の福祉課。一番の理由は、俺はこの業界に3年のブランクがある。(辞めたのは最近だったが、あの頃の俺は...あれだったからな)今どんなことが問題になっているのかを間近で調査したかったから...近かったというのも理由だが...
ここが地方で良かった。比較的業務は落ち着いていて、休憩時間に勉強する余裕もある。毎日優真に料理を教える余裕もあった。優真の上達ははやかった。俺も伝える力が身についたし、知識のアウトプットもできてすごく助かった。
時は流れて、愛花は小3、優真はもうすぐ小学生を卒業する。その頃にはもう、2人は一緒に風呂に入らなくなっていたし、帰ってくる時間もバラバラになっていた。
僕は友達が多いとは言えないし、学校に残る理由もない。料理と勉強のために真っ直ぐ帰る毎日。愛花に友達がいっぱい出来てくれて良かった。これで愛花を1人で帰らせるなんてことは起きないよね。安心して中学校に上がれる。中学生かぁ...あと6年で大人か...僕はどんな大人になるんだろうな...一人前の男になれてるかな...
ふと、お母さんが大切そうに手入れしてた書斎が目に入る。これまで入ったことは数回しかなかった。でもまるで吸い寄せられるように、僕は書斎に入った。そこには、難しそうなIT関係の専門書が並んでいる。
「お父さんの仕事だったのかな...」呟きながら僕は、いちばんやさしい!と書かれた本を手に取って開いてみた。意外と理解できたし、面白いと思った。学校の勉強はただただやるべきだと思ってやってただけだけど、この勉強は将来にも役立つかもしれない。僕の道はこれかもしれない。僕は、帰宅後の1時間と夕食後の3時間、休日は家事以外ほぼずっと書斎に籠った。勉強は楽しかった。バックドア、SQLインジェクション、プロキシサーバ、DDOS、スパイウェア、ブルートフォース、ゼロデイ。まるで厨二心をくすぐられるような用語が多かった。僕は中学生になる前にITパスポートを取ることができた。
お兄ちゃんが最近部屋に籠るようになった。わたしは休日も朝から遊びに行くから、お兄ちゃんと顔を合わせれるのは朝と食事時間だけ。普通に話すし、笑えてる。友達もできて、充分幸せなはずなのに、それなのに、寂しい...。前みたいにわたしの部屋で一緒にアニメを観たいし、風呂だってまだ一緒に入っていたかった。ずっと、一緒が良かった。
2人共、集中してるだろうし、邪魔しちゃ悪いよね...外で親子を見かけた時、友達の家におじゃました時、心の中でいつも、幸せそうだな...と思ってしまう。わたしって今、幸せ...だよね...?あれ、どうして涙が出てくるんだろう。
最近、愛花の元気がないような気がする。もちろん、気のせいかもしれない。毎日18時には帰ってきて、夕食を食べたら部屋に行く。好きなことがあるのは良いことだ。でも、心なしか愛花は寂しそうに見えた。もしかしたら優真との時間が少なくなったのが原因かもしれない。俺も気持ちは...理解できる。でも、食事の時は楽しそうに話してるんだ。それに、俺が首を突っ込むような問題でもない...2人のことは2人で...でも、その手助けくらいはして良いよな。優真の卒業記念に春休みにでも、予定合わせてパァッと旅行に連れて行ってやるかな
人によって価値観は違いますよ。だからこそ、強制はしないで。それが自分とどんな関係の人物であったとしても。




