マイドリーム
──避けろ!!
全身に、命令する。しかし、身体は鉛のように重く、全く動かない。
──くそっ、うわぁぁぁ!!!!!
「……助。嘉助!!」
「くっ、ここは!?」
俺はどうなったんだ!?
「は? 教室だけど」
「ふぇ?」
瞬間、周りから笑いが上がった。
寝てたのか? だとしたら、あれは夢?
「樟葉、居眠りで夢見てたのかよー」
「やっぱり、お前天才!」
「なっ、皆違うって、俺はホントにさっきまで」
「さっきまでどうしてたんだよ?」
「え? えーと……闘ってた」
しまった、と思った時には既に、さっきより一際大きな笑いが上がっていた。
「……樟葉は罰として、放課後図書室に来い」
「……はい」
──夢。
担任であり、英語教諭である、天本結実先生に睨まれ、俺は、徐々に冷静さを取り戻した。
そうだ、夢だよ。あんなことが起こるわけがない。
──でも、やっぱりちょっと残念だな……
「どうした? 不満か?」
「いや、それは勿論ですが……まあ、いろいろと」
てゆうか、居眠りの代償としては、罰が大きくないすか?
──うん、いいよ。樟葉なら。
「夢だったのか……」
「まだ、言ってんの? よっぽどいい夢だったんだ」
ホント、いい夢だったよ。
俺は、樟葉嘉助。未だに、5時間前の夢に未練たらたらの、悲しい高校生だ。
「なあ、嘉助。どんな夢だったんだ?」
さっきから、俺と話しているのは、財紘平。学業優秀で、女子にもモテるが、それを鼻にかける様子もない。誰とでも仲良くできるし、皆から慕われてもいる。自信を持って自慢できる俺の親友だ。
今、俺と財は図書室へ向かっている。俺は例の罰で、財は本を返しにいくらしい。
「いや、なんか後半はいろいろ大変だったんだけどさ。前半はホントいい夢だったよ」
「夢の細部まで憶えてるなんて……一体何があったんだよ?」
「やっぱり気になる?」
夢の中の話でも、あれを言うのはちょっと恥ずかしいな……
「質問してんのはこっちだっつーの。夢は深層心理を映し出す鏡だからな。気になるに決まってんだろ? つーかだから質問したんだし」
「くっ……深層心理だって? 余計恥ずかしいぜ……」
「さっさと言えよ。もったいぶるな」
財が、微笑しながら催促してくる。
まあ、でも財なら誰にも言わないだろうし、話してみるか。
「俺、夢の中で新城に告白して、オーケー貰った。夢の中だけど」
「マジ? 良かったな! 夢の中だけど」
新城伊月。俺の幼馴染みにして、昔から憧れの人だ。因みに、それを知っているのは財だけで、俺はこの思いを皆に知られないように努めている。『恋愛感情は内に深く秘めること』が俺のモットーだ。
「まあ、所詮夢の中なんだけどな。俺そんな度胸ないし……」
「そうだよな。リアルの嘉助はヘタレだからな」
「おい!! そこは慰めろよ!!」
「事実なんだからしょうがないよ。でもお前そういやあの時、闘ってたとか言ってなかった? あれは?」
──瞬間、あの恐怖が体に蘇った。
出来れば言いたくない。言葉に出すと、何故かあの夢をまた見てしまいそうな気がする。
「ああ、あれはさっき後半は大変だったって言ってただろ? それのことだよ……お、図書室着いたな」
丁度いいタイミングで図書室に着いた。これで、違和感なくこの話を切ることができる。
ほっと息を吐いて、俺はドアに手を掛けた。
──刹那。
「なっ!?」
目に飛び込んできたのは、まるで墨を撒いたような漆黒の世界。さらに──。
「し、新城……?」
血に染まった新城がいた──。