2.名前
「先生。ハトさんの名字って何て言うんですか」
椅子にもハトって書いてあるし、それが名字なのかもしれないけど……やっぱり違和感がある。
「え?ハト、よ。そう書いてあるはずだけど……?」
先生には理解不能の質問だったようだ。
「えっと……フルネームで」
「フルネームねぇ」
いや考え込むことかな。実は外国の出身で……とかならわかるんだけど。もしかして聞いちゃいけない事情とかがあった??
腑に落ちないまま、先生は他の子に引っ張られて行ってしまった。クラスメートは疑問に思っていないみたいだけど、ぼくがおかしいのかなぁ?
発音は、あのポッポーの鳩さんだけど。
休み時間、勇気を出して話しかけてみた。
「ねえ、ハトさん」
「なに?」
授業以外では初めての対話だ。少し緊張する。
「や、やっぱり何でもない」
話しかけておいて失礼な話だが、先生も教えてくれないし今更ながら聞くのはためらわれた。
「木所さん」
よくわかんない奴って思われたかな。
「次からキトさんって読んでいい?」
「キト?いいけど」
なんでいきなりあだな?とりあえず承諾したけど、これからそう呼ばれることが当たり前になるとは思えない。まだお互い名前くらいしか知らないのに。
「じゃあ、ぼくもえーっと……」
気を遣ってこちらからもあだ名を指定しようと思ったが、ハトをどう変えればいいのか。
「……ハトさんって呼ぶよ」
結局、そのままにした。当たり前だけどなんだか面白くて、二人で笑った。