これは最下層に生きる少年の物語
初めて小説書いてみました、暖かい目で見てくれると嬉しいです
ここは異世界
空には青があり、風が吹き、木々がざわめく――けれど、よく見ると全てが少し歪んでいる。
これは、転生者によって書き換えられた世界線だ。
彼らにとっては居心地がよく、都合のいい法則だけが整えられた。
街も自然も時間も――すべてが、転生者という存在を中心に調整されている。
だが、転生者でない者――僕のような先住民――には、ここはとても生きづらい。
空気は重く、湿っていて、光は届きにくい。
文明の跡も、かつての人々の痕跡も、ほとんど消えかけている。
そんな世界の底に、僕はいる。
光ひとつ、影ひとつ、静寂ひとつも、僕のもの。
ーー
ぬるり、とした音がした。
スライムが床を滑るように這い寄ってくる。全身は半透明で、ぐにゃぐにゃと揺れ、何を考えているのかわからない。
けれど、弱い魔物だと馬鹿にすれば、一瞬で取り込まれて窒息死する。最下層に生きる以上、油断は許されない。
「はっ……!」
短剣を突き出す。だが、刃は弾かれたようにずるりと滑り、手から抜けそうになる。
反撃するように、スライムの塊が僕の足へと伸びる。冷たい感触が皮膚を舐め、全身が震えた。
「う、うわっ!」
咄嗟に足を引き抜こうとしたが遅い。ぬるぬるした粘液に絡め取られ、僕はバランスを崩して転ぶ。石の床に背中を打ちつけ、息が詰まった。
そのとき――。
「未熟だな、ルイア」
低く、重たい声が響いた。
僕の頭上に影が落ちる。振り向けば、そこに立っていたのは大きな人影――魔王のコピー体だった。
⸻
彼はこの最下層に、ただ一体だけ残された存在。
元々は世界を滅ぼす側だった魔王。その「記録」をもとに生み出された影のような存在が、今は僕の師匠をしている。
「足の角度が悪い。腰が浮いている。呼吸を整えろ」
短い指摘が飛んでくる。
僕は慌てて立ち上がり、再び短剣を構える。息が荒い。足も震えている。
「で、でも、こいつ……! 全然当たらない!」
「当たらぬのではない。お前が外しているのだ」
魔王のコピー体の赤い瞳が、灯火に照らされてぎらりと光った。
逃げ場はない。ここで立ち向かわなければ、ただ喰われて終わるだけ。
僕は深呼吸を一つして、再び踏み込んだ。
⸻
何度目かの突き。
また弾かれる。刃がぬるぬるした膜に飲み込まれそうになり、慌てて引き抜いた瞬間、スライムが反撃に跳ね上がった。
「くっ……!」
顔を狙った粘液の塊を紙一重で避ける。だが、頬に冷たい滴が飛び散った。
全身が粟立ち、呼吸が荒くなる。
「怖じるな。敵を『形』として捉えろ。ただの塊だ。切り分ければ消える」
コピー体の声が響く。
僕は、恐怖で狭まった視界の奥に――小さな「核」が揺れているのを見つけた。
そこが弱点。狙うのは、ただ一点。
「……やってやる!」
短剣を強く握り直し、全力で踏み込む。
床石が軋み、体が前へと走る。
スライムの粘液が腕に絡みつく。焼けるように冷たい。痛みに歯を食いしばりながら、僕は渾身の突きを放った。
――ズブリッ。
刃が沈み、核を貫いた。
スライムが断末魔のように震え、やがてぐにゃりと崩れ落ちて消える。
「や、やった……」
その場にへたり込む。全身が震えている。
短剣を握る手は汗で滑り、もう力が入らなかった。
「……まだ未熟だが、一歩は進んだな」
魔王のコピー体が言う。
僕は嬉しさと疲労で泣きそうになりながら、ただ小さくうなずいた。
ーー
戦いを終え、夜になった。
最下層の静寂はさらに深まる。
コピー体が持ってきた肉を焼く匂いが漂い、冷たい空気に少し温かさが混ざる。
僕の手元には、小さな灯火――揺れるオレンジ色の光――がある。
手をかざすと温かく、時折黄色や緑、紫に光り、ふわふわと揺れる。
消えないその光は、まるで僕に寄り添い、ここに居てもいいと語りかけてくれるようだった。
僕は小さく息を吐き、灯火の揺れを見つめる。
今日の戦いで体は疲れ切り、膝や肩がまだ少し痛む。
そこへ、魔王のコピー体がやってきた。
「外の世界は、もうほとんど転生者によって支配されている」
「てんせいしゃ……?」
僕は首をかしげる。初めて聞く言葉だ。
「昔、彼らはこの世界で自然に生きていた者たちのささいな行動に苛立ち、ほとんどを滅ぼした」
その声は淡々としているけれど、胸に重く響く。
「今、地上には一万人の転生者がいる。未来的な王都を中心に、周囲の街もほぼ彼らの支配下だ。光の塔や鋼鉄の都市、人が集まる場所はすべて彼らのものだ」
僕は息を飲む。目に見えない景色を想像するだけで、胸が詰まる。
「じゃあ……僕も?」
コピー体の目が少し影を帯び、静かに頷く。
「お前は狙われている。お前はこの世界で自然に生きていたもの、、先住民だからだ、」
言葉の重みで、握った短剣が少し震える。
でも、胸の奥で、わずかに灯る希望もある――
生き延びる力をつければ、いつか外に出ることができるかもしれない、そう思った。
見てくれてありがとうございます、アドバイスくれると嬉しいです