陛下とコピー品
国王は、ホーデン領でのキックボード販売の報告を受けた後、王都での早期普及を考えていた。
(魔導3輪車は、想像がつかなかったので今回は、除外した)
考えた結果、王都や周辺の領の魔導具師に製造をしてもらう事にして、教育の講習や個人登録、盗難防止等を無くして、価格も下げての販売を決めた。
学園の休み前に実車を見た者からの話を聞き、簡単な絵と仕様書を書かせた。(この時点では、回転魔導具の性能やリアブレーキを付ける事は知らない)
準備が出来た所で、宰相とサンニッチ公爵を呼び、キックボードの王都導入の話をした。
「私は反対させて頂きます。教育無しでは、必ず事故はおきます。 個人登録や盗難防止が無ければ、犯罪が多くなる事が懸念されます」
宰相は、国王に意見を具申した。
「宰相は反対か。サンニッチはどう考える?」
「私は、キックボードがどの様な物か知りません。娘に少し話を聞いた程度です。ただ陛下がやると言えば従います」
「そうか、サンニッチにはキックボードの製造販売を命ずる。1日100台以上の販売をしろ」
「はっ」サンニッチは、国王の命令を受諾した。
「陛下、お考え直しをお願いします。ホーデン領でやっている意味をもう一度考えて下さい」
「くどいぞ宰相、決めた事だ。このままやる」
「では何か有った場合は、王宮とサンニッチ公爵とでお願いします。王城では何もしません」
「わかったわかった、それで良い」
これにより王都でのキックボードの製造販売が決まった。 1週間後には販売され、手軽に使える事もあり販売台数は好調で、1日200台売る事も有った。
(試験走行は、空き地のみで実施。王都内での実走行は実施していない。教育講習無し、個人登録無し、盗難防止無し、回転魔導具は、ホーデン製と違い魔力を流すのを止めるとゆっくりになって止まらず、惰性で回りっ放しになってしまう)
国王は、サンニッチに販売数を聞き、大いに喜んだ。
◆
ホーデン領では、キックボードと魔導3輪車が発売され2ヶ月が経ちました。
町ではもう普通の光景になっていて、事故等も無く、秩序のある運転がされています。
(南部の他領の方も来る様になり、少数ですが王都からも来ています)
先日カリーナお姉ちゃんから手紙が来て、他領製のキックボードが販売していると書いてありました。
それに伴い王都では、キックボードの事故、盗難、犯罪が多発しているので、怖くて今は控えているそうです。
ある公爵家が、国王の依頼によりコピー商品を作り大量販売をしており、教育もせず売っているので、自由気ままに使い、無秩序の状態になっているそうです。 事故だけでも1日500件以上あるそうです。
◆
王都では、国王と宰相が話をしていた。
「陛下、サンニッチに販売を中止させて下さい」
「どうしてだ?」
宰相は、販売中止の理由を言った。
○ 教育もせず売っているので、無秩序状態なっており事故が多発して1日500件以上。
○ 死亡事故は、1日100件以上。
○ 兵士等による事故処理が追いつかない。
○ 盗難が頻繁にある。
○ 盗難された物は、犯罪に使われている。
○ 王都は危険な所であると認知されて来ている。
○ キックボードは、走る凶器と呼ばれている。
「以上が、販売の中止理由です。継続なら教育を行なって下さい。勿論今までの購入者も含めてです。
もしくは、王都内での使用禁止でお願いします。
ホーデン領及び近隣の領では、死亡事故等は0であり、個人登録や盗難防止があるので、犯罪等には使われておりません。 毎日100人以上の方が亡くなっています。本当にこのままで良いのですか?」
「サンニッチと第1王子、学園でのホーデン製を使っている生徒を呼んでくれ」
◆
王城には、国王に呼ばれた者達が会議室に集められていた。
王城からは国王、第1王子、宰相、サンニッチ公爵で、学園からは、カリーナ、シフォン、ミラージュ皇女の3名。
宰相の言葉から始まった。
「本日集まってもらったのは、キックボードの件です。今王都では、事故が多発しており大変は状態となっておりますが、ホーデン領ではその様な事は無いと聞いております。どの様な教育をされているのか、お聞きしたいと思い来て頂きました。 最初に、カリーナ・ホーデン嬢お願いします」
カリーナは指名されて、セリカに教わった事を話す。 ○ 命の大切さ。
○ 走行の仕方。
○ 交差点での行動。
○ 歩行者の安全。
○ 事故をおこした時の対処の仕方。
○ 夏前に人の多い所での試験走行を行なった事で、見えていなかった事を発見して、その部分をルール等に追加した。
○ 試験走行を行って、回転魔導具の減速だけでは危ないので、後ろのタイヤにブレーキを付けて、止まれる距離を短くした。
○ 学科と実技を行って合格者のみにしている。
○ 教育をしても事故はあるだろうと考えている。
○ 便利に使える物をより安全に使う事を目的にしている。
シフォンとミラージュ皇女には、その教育を受けてどの様に感じたのかを聞き取りされた。
3人はその後、退出して学園に戻った。
「陛下、どうでしたか?」
「彼処迄、細くやっているとは思わなかった。早期導入で王都の活性化を狙っていたのだが、逆になってしまったな」
「第1王子は、どうお考えですか?」
「当たり前の事を言っているだけですが、改めて教育をして再認識させる事は良い事ですね。導入した方が良いでしょう」
「サンニッチ公爵はどうですか?」
「陛下の命により、製造販売をしただけですので、中止なら従います。継続なら指針を出して下さい」
宰相からの要望として、
○ 王都内でのキックボード及び魔導3輪車の使用禁止。
○ ホーデン製も暫く禁止。
○ 販売の中止。
○ 全ての回収、返金対応。
が出された。
「それは、困ります。家は大赤字になってしまう。それに全ての回収は無理です」
暫く話し合いが進められて、決まった事は、
○ 王都内での使用禁止。
○ 購入者は、販売店に返却をして返金を受ける。
○ 返却に応じない者からは、没収。
○ サンニッチ家には、回収返金に関する補助金。
○ 補助金は、王家からの支出。
○ 販売再開は、教育施設の設置、安全装備の取り付け、個人登録の義務。
○ ホーデン製は、1〜2ヶ月後から使用再開。
○ ホーデン家に教育内容の話を聞く。
話が纏まり解散となった。
執務室に戻った国王は、ボソッと言った。
「どうして上手く行かぬのだ」
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