第7話:推しとの待ち合わせ
食事の約束を取りつけたものの、前日の夜から俺はずっと落ち着かなかった。
(推しと二人でご飯とか、本当に大丈夫か……!?)
カフェで偶然再会した時は勢いで話せたものの、改めて「食事の約束」となるとプレッシャーがすごい。何を話せばいいのか、変に緊張してぎこちなくならないか、そもそもこの服装で大丈夫なのか……。
(ダメだ、考えれば考えるほど緊張する……!)
ベッドの上で悶々としながら、気づけば夜中の3時を回っていた。
翌日、待ち合わせ時間の30分前には指定のレストラン近くに到着していた。
(早すぎた……!)
でも、遅刻するよりはマシだろう。店の前でうろうろするのも不審なので、少し離れた場所でスマホを確認する。
『もうすぐ着きます!』
天音さんからのメッセージが来ていた。
(やばい、緊張する……!)
深呼吸を繰り返していると、数分後、視界の端に見慣れたシルエットが映った。
「ごめんね、待った?」
軽く息を弾ませながら、天音しおりさんが俺の前に立っていた。
「い、いえ! 俺も今来たところです!」
テンプレのような返答をしながらも、内心は大混乱だった。
(今日の天音さん……めちゃくちゃ可愛い……)
普段のメディア露出時とは違い、ナチュラルな服装なのに、いや、それだからこそ彼女の魅力が際立っている。カジュアルなワンピースにシンプルなカーディガン、それだけなのに圧倒的な透明感。
「このお店、楽しみだなぁ!」
天音さんは店の外観を見て、嬉しそうに微笑んだ。
「私、こういうお店あんまり行ったことないんだよね。だから新鮮かも!」
「そ、そうなんですね! 喜んでもらえたならよかったです!」
「あはは、そんなに緊張しないで?」
バレてた。
「え、いや、その……すみません、なんか……」
「ふふっ、大丈夫。私もこうやってプライベートで誰かとご飯行くの久しぶりだから、ちょっとドキドキしてるよ」
(そんなこと言われたら、余計ドキドキするんですが!?)
そんなことを考えながら、俺たちは店の中へと足を踏み入れた。
***
案内された席に座り、俺たちはメニューを広げた。
「わぁ、美味しそう! どれにしようかな……」
天音さんは楽しそうにメニューを眺めている。
俺も落ち着こうとしつつ、注文を決めることにした。
「何かおすすめあります?」
「えっと、この店のパスタが結構評判みたいです!」
「へぇ、じゃあそれにしようかな!」
「俺もそれにします!」
ちょっとかぶせすぎたかもしれない。でも天音さんはクスッと笑って、「仲良しみたいだね」と冗談めかして言った。
(そんなこと言われたら、また意識しちゃうだろ……!)
食事が運ばれてくると、天音さんは本当に嬉しそうに「いただきます!」と言ってパスタを口に運んだ。
「……ん! 美味しい!」
「よかったです!」
彼女が美味しそうに食べているのを見るだけで、なぜか俺まで幸せな気分になった。
「でも、本当に不思議だよね。あの時、雨の中で助けてもらってなかったら、こうして一緒にご飯食べることもなかったんだもんね」
「そ、そうですね……俺も、まさかこんなことになるとは……」
「運命……だったりして?」
彼女は冗談っぽく笑う。
俺はもう、心臓が持ちそうになかった。
推しと二人で食事。しかも、まさかの「運命」発言。
(俺、本当にこんな幸せな時間を過ごしてしまっていいのか……!?)
でも、この時間が少しでも長く続くように、俺は必死に平静を装いながら、目の前の彼女との会話を楽しもうと心に決めたのだった。
あとがきとかは基本書かない人なんですがあった方がいいのでしょうか