第5話:推しからの初メッセージ
「……本当に、連絡先交換しちゃったんだよな……?」
カフェを出た後、俺はスマホを片手に放心状態だった。
画面に表示された「天音しおり」の名前。
(いやいや、冷静になれ。推しの名前を登録して喜んでるオタクとか、ただのやばい奴だろ)
だけど、これが夢でも妄想でもないことは、はっきりしている。なぜなら――
「本当に、送ってきてくれた……」
スマホの通知には、数分前に天音さんから届いたメッセージが表示されていた。
『今日はありがとう! 偶然会えて嬉しかったよ!』
推しからの、直接のメッセージ。
俺はしばらくその一文を見つめた後、じわじわと現実味が押し寄せ、心臓がドクンドクンとうるさいくらいに脈打ち始めた。
(ど、どうする……!? 返信、どうする!?)
ただのファンなら、一方的に推しの言葉を受け取るだけだ。でも今は違う。これは、俺に「返信する」という選択肢がある状況。
(でも、何て返せば……!? 変なこと送ったら終わる……いや、そもそも敬語のほうがいい? いや、ラフなほうが……)
頭の中で何十パターンも文章を考えた末、ようやく送信ボタンを押した。
『こちらこそありがとうございました! まさかまたお会いできるなんて思ってなかったので、驚きました!』
無難! 無難な返しだ! これなら大丈夫なはず!
送信してすぐ、またスマホが震えた。
『本当に偶然だったね(笑) でも、また会えて嬉しかったよ!』
(やばい、推しが「また会えて嬉しかった」とか言ってる……これは実質優勝……)
俺は何度もメッセージを読み返していた。
けれど、そうしている間にも新たな通知が来る。
『またタイミングが合えば、ご飯とかどう?』
――。
『またタイミングが合えば、ご飯とかどう?』
――!?!?!?!?
頭が真っ白になった。
今、俺の推しはなんて言った? ご飯? 推しと? 二人で?
(ちょっと待って、これ、一線越えてない!?!?!?)
心臓の音がうるさい。鼓動が速すぎて手が震える。落ち着け俺、ここで変な反応したら全部終わる。ここは冷静に、普通のテンションで返信を――
『ぜひ!!』
テンション高すぎた。
慌てて訂正しようとしたその時、またスマホが震えた。
『やった! じゃあまた予定合わせようね!』
俺はそのメッセージを見つめたまま、しばらく動けなかった。
(これ、本当に夢じゃないよな……?)
最推しの天音しおりさんと、連絡先を交換して、メッセージをやり取りして、さらにはご飯の約束までしてしまった――。
普通に考えて、こんなことありえるか?
でも、スマホの画面に並ぶメッセージが、そのありえない現実を確かに証明していた。
(……俺、今すごいことになってる気がする)
喜びと緊張を抱えたまま、俺はスマホをそっと握りしめた。