37話:特別な時間
カフェの扉を開けると、店内には心地よいコーヒーの香りが漂っていた。
はじめは、少し早めに店に着いていたしおりの姿を見つけて、小さく手を上げた。
「はじめ、こっち」
しおりが笑顔で手招きする。
その仕草に、はじめは自然と頬が緩んだ。
「ごめん、待たせた?」
「ううん、私も今来たとこ」
はじめが隣に腰を下ろすと、しおりが小さく「ふふっ」と笑った。
「何?」
「……なんかね、こうして一緒にいるのが普通になってきたなって思って」
「それ、俺も思ってた」
そう言いながら、はじめは気づかれないようにそっと手を伸ばし、しおりの指先に触れた。
しおりが驚いたように目を丸くしてから、にっこりと微笑んで、その手を握り返してくれた。
しおりは、はじめの手の温もりを感じながら心の中でつぶやいた。
──やっぱり、はじめといると落ち着くなぁ。
最初は「推しと付き合えるなんて夢みたい」って思ってた。
でも今は、それだけじゃない。
「一緒にいて楽しい」
「もっと話していたい」
「もっと、はじめのことが知りたい」
そんな気持ちが、少しずつ膨らんできているのが分かる。
──好き。
はじめのことが、好き。
今なら、その気持ちをちゃんと自覚できる。
はじめは、しおりがドリンクを飲むたびに目を細めて「おいしいね」と笑うのを見て、なんだか胸が温かくなった。
この笑顔が見たかったんだ。
こうして一緒にいる時間が、はじめにとって一番幸せな時間になっていた。
「ね、はじめ」
「ん?」
「次はどこ行く?」
「え?」
「だって、次のデートのこと考えてるでしょ?」
「……バレた?」
「うん、だって、顔に書いてあるもん」
からかうように笑いながら、しおりがはじめの腕にそっと寄りかかってきた。
──ああ、これが“恋人”なんだな。
自然とそう思えた瞬間、はじめはそっとしおりの肩に頭を寄せた。




