35話:募る想い
デートを終えて、一人になった帰り道。
しおりはスマホを握りしめながら、まだ温もりの残る手を見つめていた。
「……はじめ」
さっきまで隣にいた人の名前を、無意識のうちに呟いてしまう。
楽しかった。
本当に楽しかった。
それなのに、離れた途端に寂しさが込み上げてくる。
「またすぐ会えるのに……変なの」
自分で自分をからかうように呟いて、スマホの画面を点ける。
はじめとのトーク画面を開いたまま、何か送ろうかと迷った。
──今日はありがとう、楽しかった。
そんな簡単なメッセージすら、送るのがもったいなく感じるほど、胸がいっぱいだった。
結局、言葉を打ち込むこともなく、スマホの画面を消した。
家に帰ると、現実に引き戻されるような気がした。
「ふぅ……」
バッグをソファに置いて、コートを脱ぐ。
静かな部屋。
さっきまで隣にいたはじめの声も、温もりも、もうここにはない。
──ずっとこうしてたくなっちゃうな。
自分で言った言葉を思い出し、顔が熱くなる。
「……はぁ、恥ずかしい」
でも、本音だった。
はじめと一緒にいると、安心するし楽しい。
もっと一緒にいたいし、離れたくない。
そう思うたびに、胸がきゅっと締めつけられる。
これって……どういう気持ちなんだろう?
テレビをつけても、SNSを開いても、さっきまでの時間が頭から離れない。
はじめは、私のことをどう思っているんだろう?
「……私は」
今の関係が心地いい。でも、もしこの気持ちが恋だとしたら──
いや、考えすぎだ。
ため息をついて、スマホを手に取る。
迷った末に、ようやくメッセージを送ることにした。
『今日は楽しかった。ありがとう』
すぐに既読がついて、返信がくる。
『俺も楽しかった。また遊ぼうな』
短い言葉なのに、どうしようもなく嬉しくて、自然と笑顔になってしまう。
また会いたい。
早く、次の約束がしたい。
しおりは、そんな想いを胸に抱きながら、スマホをそっと胸に抱きしめた。




