第6話 もう眠いっす Zzzz……
慌てて年相応な仕草のリアさんは可愛いんだけど、このままじゃ収拾がつかないので話を進めようか。
そろそろ本格的に眠くなってきたし。
「まぁまぁ、今はそんな些細なことは置いて、情報の整理をしましょう」
「……うぅ全然些細でないですし良くもないですけど、分かりました……。でも……あ、あの、私の……へ、変な情報は見てませんよね? ね?」
渋々俺の提案を受け入れたように見えたリアさんだが、それでも恥ずかしさが勝ったのか顔を真っ赤にして食い下がり、俺が能力板から把握した情報の心配をしている。
いや~美少女の恥ずかしがる顔って、とっても良いものですね‼
その慌てぶりからすると、18禁なステータスの数々の存在は本人も把握しているっぽいな。
……う~ん、冷静に考えると、それめっちゃ嫌だわ。
リアさんが慌ててるのも確かに分かる気がする。
自分の『感度』やら『性感帯』とか『絶頂回数』なんて見たくない。
男の場合はどうなるのだろうか? 男にも『深さ』なんて数値とか有ったら恐ろしい。
そもそもいったい何の深さなんだ?
と、色々の能力板の数値に関して話を掘り下げたい気持ちもあるけど、俺は優しい笑顔で「見てません」とだけ答え、それ以上の回答はスルーした。
「まず確認なのですが、リアさん達は魔王の転移罠にかかって現在は石の中にいる。と言う事でいいですか?」
「はい……。ほ、本当に見てませんよね?」
やっぱり17歳の少女には、あのステータスの数々は恥ずかしのだろう。
あんなふざけたステータス値を創るような変態がいる世界の住人なのに、貞操観念自体は俺の世界と変わらなくて少し安心したよ。
「安心してください。初めて能力板と言うものを見たので驚いてそれどころじゃなかったですって。えぇと、そうですね、名前と年齢……あと職業くらい……? しか見てません。本当です」
俺はもう一度優しい笑顔でそう答える。
すると、俺の笑顔にやっと安心したのかリアさんはホッと息を吐いた。
なんか、この人めっちゃチョロいな
「ところでリアさん、これ見えますか?」
俺は頭の上に浮かんでいるメッセージボードを指差した。
外観は全く同じ青く光る半透明の板。
能力板が他の人に見えないと言うのなら、じゃあこれはどうなんだ?
リアさんは最初から何の反応も示さない……いや、それどころか、一回も目線さえ向けていなかった。
最初はリアさんの世界では有り触れたものだから気にしないのかとも思っていたけど、右も左も分からない今の状況で『新しい通知はありません』なんて書かれていたら余計に気になって、なにか言及が有ってもおかしくないだろう。
と言う事は、これは俺にしか見えていない可能性が高い。
思った通り、リアさんの目線はメッセージボードよりも上にある天井に向けており、不思議そうに首をかしげている。
「天井よりもう少し下ですね。実は空中に能力板のようなものが浮かんでるんですよ」
「えっ? さっきはあなたの世界には無いって言ってませんでしたか?」
「はい、ありません。と言うかありませんでしたって言うのが正しいですね。急に見ず知らずの板が現れたから驚いていた所に、丁度リアさんが降って来たってわけです」
「そうだったのですね。と言う事はそれも悪魔の罠の影響……?」
「ほう、そんな事もあるんですね」
「聞いた事例は有りませんが……そうとしか……ぶつぶつ」
そう言うと、リアさんは一人あーでもないこーでもないと呟きながら、何かを考察し出した。
よし、あくまで私は巻き込まれた被害者ですよと言うスタンスを確立出来たぞ。
これで俺に対する尋問も逸らすことが出来ただろう。
まぁぶっちゃけ、実際スタンスも何もその通りなんだし、正直魔王とか魔法なんてそんな不思議時空では無い世界の住人である俺が考えても答えなんて出てくる訳ないんだよね。
それにメッセージボードが現れた事と、リアさんがこの部屋にやって来た事に関しては、タイミング的に絶対に関連が有るとしか思えない。
餅は餅屋に任せるって言葉もあるし、不思議時空の事はそこの住人に任せた方が早いでしょ。
と言うか、一安心して落ち着いたら本格的に眠たくなってきた……よ……Zzz…z…z。
グーグーグー……。
「寝ないで下さーーい!」
「うわっ! びっくりした。ね、寝てませんよ。寝てませんと……も……グーグー」
リアさんが寝落ちした俺の両肩に手をかけてガックンガックン揺らして起こそうとするんだけど、緊張の糸が切れた瞬間から瞼が重くてどうしようもない。
正直一般人の俺にはどうする事も出来ないし、そもそもこの事自体が夢で、もうすぐしたら目覚ましの音で起こされるんじゃね? と、思い始めていたりする。
「だから寝ないで下さいってぇ! どうしてこの状況で寝れるんですかぁーー!」
「いや、もう毎日仕事が忙しくて疲れてるんすよ。就業中にイビキでもかこうものなら上司に吊し上げられてネチネチとイビられるもんて、ちょっとだけ寝させて下さい……グゥ……」
「だから、こんな状況で一人にしないで下さい~!! 疲れが取れたら良いんですね? ならこれで……『リフレッシュ』!!」
意識の向こう側で薄っすらと聞こえていたリアさんの言葉。
最後の呪文っぽいのを口にした途端、目を瞑っているのにも関わらず、眼球がビクンと反応する程の眩い光が俺の部屋に溢れたのを感じた。
リアさんにお願いされても、眠りの沼から抜け出せずにハマっていた俺だが、あまりもの事態に眠気など何処へやら、慌てて飛び起き目を開ける。
俺の瞳孔に途轍も無い光量が押し寄せた!
「うぉっ! め、目が! 目が~! って、あれ? 痛くない?」
太陽より眩しい光のようだが、それを直接見たと言うのに、痛みどころかなんだかとても気持ちいい。
それに気付いたんだけど、ビックリしたから眠気が飛んだと言う訳ではなく、俺の身体から疲れと言う存在自体が消えたみたい。
こんなに清々しい気分はいつ以来ぶりだろうか?