第12話 言ったじゃないですか! やだぁ~
「恐らくなんですが、残念な事にリアさんは元の世界に戻るまで、この部屋から出られません。黒い壁に見えるのは、次元の境界なんだと思います」
「次元の境界……ですか?」
「……はい」
自分で言っておいてアレだが、何だよ次元の境界って! 日常生活では一生口にする事のない言葉だよ。
なんだか厨二病患者みたいで恥ずかしいけど、それっぽい事を言ってある程度俺の懸念に説得力を持たせておいた方が良いだろう。
「外が見えない理由なんですが、俺の世界とリアさんの世界との繋がりは、この部屋だけに限られているからだと思います。その為、リアさんは閉ざされた次元を飛び越えてその先を知覚出来ない……」
いや~なんか恥ずかしさを乗り切れば、ツラツラと厨二病ワードが飛び出てくるよ。
真剣な顔してこんなセリフを吐いた奴なんて俺くらいなんじゃないか?
「それは大賢者ファルメンスが提唱した神創神理の法則第二『己が知の先に己の覚は無なり』の事ですね! 魔法学の基礎! 自らの器の果てを知らぬ者は、その先にさえ進む事は出来ない。なるほどぉ……」
ごめん、それ全く知らないから。
何も共感出来ないし、その言葉が合っているのかも分からないわ。
誰だよその大賢者ファル何とかの神何とかの法則って。
なんか俺が言った事以上の厨二病ワードが帰って来たよ。
まぁいいか、それだけ納得してくれたのなら俺の注意事項も守ってくれそうだ。
話の腰を折るのもなんだし、取り敢えずにっこりほほ笑んで肯定しておくか。
「ええ、そうですね。で、ここからが本題です。リアさんがその境界に触れてしまった場合、何が起こるか分からないと言うことです。だから決して近付かないで下さいね」
そうなんだよ。
壁なんて見えない俺は何も起こらなかったけど、次元の境界を漆黒の壁と認識しているリアさんの場合、何が起こるのかは一切予想が出来ない。
リアさんの命が掛かってる以上、最悪の想定で行動する方が良いだろう。
元の世界に戻るのか? それとも次元の狭間に引き摺り込まれて別の世界に飛ばされる……なら良い方で、下手すると次元の狭間を一生彷徨うなんて事も考えられる。
君子危うきに近寄らず、自然に帰還するまで待つべきだ。
ゴンゴン。
……ん? なに今の音?
「う~ん、やっぱり私の目に映っている通り、なんだか普通に壁のようですね。それに触った感じが、思ったよりゴツゴツしていて、まるっきり岩のようです。よ~し、てりゃ!」……ゴン!
「へっ?」
俺が最悪の事態についてあれこれ考察していると、ちょっとリアさんから目を離した隙に、なんだか勝手に次元の境界を触ってるぅーーー!
しかも結構強めに殴っているぞぉう?
「ちょっ、リ、リアさぁぁーーん! 気を付けてって言ったじゃないですかぁ! なに触ってんですか!」
「ご、ごめんなさい。つい興味が湧いてしまって……」
涙目になりながら必死に注意する俺に、リアさんは恥ずかしそうに目を逸らしながら口を尖らせ、胸の辺りで両手の人差し指をツンツンと当てている。
その仕草がめちゃ可愛い。
くぅ~! 恥ずかしさ誤魔化すために指ツンする女の子って、そんな漫画みたいな存在が本当に居るのかよ!
そう言えば、この子ってば適応能力だけじゃなく、好奇心も旺盛だったわ。
所々異世界うんちくも挟んで来てたし、学者肌って感じ? しかもどうやら超実践派みたい。
最初は、幼馴染な俺様勇者を甲斐甲斐しく面倒を見る、しっかり者の大人な女性と思ってたんだけど、この子も結構破天荒な性格をしてるようだ。
案外二人はお似合いなのかもな。
いや、勇者がどんな奴か知らないけど。
なんにせよ、これは話を勿体ぶって、最初にはっきりと触るなと言わなかった俺が悪い。
「ちゃんと言わなかった俺が悪かったです。ごめんなさい。けど何もなくて本当に良かった。最悪触れた途端、次元の狭間に飲み込まれて永久に時空を漂う事になったりとか考えられましたからね」
「そ、そうですね。迂闊でした。そう言えば、偉大なる精霊使いレコンフィルの記した『妖精界白書』にも『異界への扉には不用意に触れてはならぬ。』と書かれています。私こそ本当にごめんなさい」
またもや出てきたよ、今度は精霊使いですって!
いいな~、そんな厨二病ワードをポンポン日常で使用してる世界。
俺もそんな世界で暮らしてみたいや。
っと、日頃の激務の辛さからちょっと現実逃避してたよ。
別に俺は、天涯孤独でもないし、この世界に絶望もしていない。
トラックに轢かれたり、通り魔に刺されるなんて、やむを得なく現世からオサラバするような事態でも無い限り、このままでいいや。
……だって、魔物とか魔王とかそんな危ない生き物が跋扈してる世界に行っても、俺なんかあっと言う間にそいつらの胃袋の中だわ。
「まぁ何にせよ、リアさんが壁に触っても、問題無いって事に安心しましたよ。すみませんが、俺もうすぐしたら会社にいかなくちゃダメなんです。だから俺が留守の間に何かあったらと思うと気が気じゃなかったですからね」
「そうなんですね。お仕事なら仕方有りません。でも、ご心配無く。どうせ部屋から出れませんし、大人しくお帰りになるのを待ってます」
リアさんの『帰るのを待っている』と言う言葉にちょっとドキッとしてしまった。
上京してから、帰ったら誰かが迎えてくれるなんて事なかったからなぁ。
あぁ、俺の立てた音に煩いお隣さんは、迎えてくれると言えるのかな?
真の意味での壁ドンと怒鳴り込みって意味だけど。
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