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第11話 やっぱり異世界の予習は大切だね 

 そんな感じで少し姪みを感じ出したリアさんを見ながら『姪と言えば、最近田舎に帰ってないな~』なんて事を考えていると、カーテンの隙間から夜空が白む景色が視界の隅に映った。

 どうやら朝が近付いてきたらしい。


「っと、もうすぐ朝ですね」


 いつもなら徹夜した今の状況に焦りを生じるんだろうけど、今日は違う。

 なんたって、リアさんの魔法のお陰で、全く眠くなく元気いっぱいのままだからね。

 俺は立ち上がり窓まで歩いていく。

 そしてカーテンを開けて、ビルの隙間から見える薄く赤みが増した空を眺めていると、リアさんは俺の後ろからヒョコンと首を出し不思議な顔をして窓の外を覗いてきた。

 あぁ、異世界の景色を見て驚いているのかな?

 初めて見る異世界の風景が、こんなビルに囲まれた路地裏で申し訳ない。


 ここに居る間に色んな風景を見せてあげたいんだけど、今日も仕事があるんだよな。

 次の休みまで、あと二日。

 さて、リアさんはいつまでここに居られるんだろうか?


 ゲームでの待機時間は最大でも24Hだ。

 しかしながら、リアさんの世界では、ゴシップ本の記述なのでどこまで信憑性があるか分からないけど、被害者が行方不明になってから数年後に出現したって例もあるらしい。

 リアさんの世界に対して、ゲームでの復帰時間がどれくらい反映されているものなのかは、正直なところ判断材料が皆無なので予想もつかないな。


 本当に数年もここに居るとかになったらどうしよう?

 仮にそうだとすると、向こうの世界に戻る際に、この部屋に居ないといけないのか? それともどこに居ようが強制的に引っ張られるのか?

 それすらも分からない現状では、迂闊に部屋の外に出るのは危険だ。


 とは言え、ずっとこんな部屋に閉じ込めておく訳にもいかないし、飯は俺が買ってくるとしても、ここは男一人暮らしの1LDK。

 女性であるリアさん用の着替えや生活用品は必要になるはずだ。

 次の休みになっても帰らないようなら、リアさんと一緒に近くのショッピングモールに買いにいくか。

 元の世界に帰った時の土産話にはなるだろうしね。


 そんな計画を提案しようとリアさんに目を向けると、なんだか様子がおかしいことに気付いた。

 その目は、初めて見る異世界の景色を見入っているのではない。

 遠くを見る目線ではなく、なにかすぐ近くの物を見ようと必死で目を凝らしている様に見える

 表情も眉間にシワを寄せて口をへの字にしていた。


「どうしました?」


 俺が声を掛けると、同じ表情のまま俺を俺を見上げる。

 なにその表情? 異世界はそんなに気に入りませんでしたか?

 もしかすると、マナやエーテルの無い世界が不思議だとか、大気が汚染されてて汚いとそんな感じ?

 う~ん、外を案内するのは止めておこうかな。


「タモツ様? 真っ黒な壁を見ながら、なに言っているんですか?」


「へ?」


 真っ黒な壁? どう言うこと?

 ただ、何だろう? リアさんの言葉に少しゾッとした。


 リアさんの目は嘘を言っているようには見えない。

 それどころか、彼女の瞳には窓から入る朝焼けの光が映し出されていなかったんだ。

 その身体も、部屋の照明を背に受けて、逆光のように窓に向かって影が指している。

 慌てて俺の身体を見てみたが、普通に窓からの朝日を受けていた。


「あの、ちょっと確認したいんだけど、ここにはなにが見えてます?」


 俺は恐る恐る窓を指さしてリアさんに尋ねた。

 するとリアさんは、俺のただならぬ様子に戸惑いながら不安そうに口を開く。


「えっと……大きな木枠……装飾は有りませんが額縁でしょうか? そこには漆黒…真っ黒に塗り潰された絵? が壁に飾られているように見えます」


 俺はその答えに愕然とする。

 俺の指さした先には、経年劣化の歪みによって建付けが悪く、開けようとするとギィギィガタガタと素直に開いてくれない木枠のサッシで造られた窓がある。

 だが、リアさんの話では、窓自体を認識していないようだ。

 窓を形作っている枠を額縁と捉えており、その中は漆黒が存在している。


 それってどう言うこと?

 だいぶこの状況に慣れたと思っていたが、流石にこれは予想外過ぎるだろ。


 う~~ん、一体全体何がどうなって……あっ!

 

 そうだ、考えられるのは、いまも部屋の中央に浮かんでいる伝言板、そこに最初に表示されたメッセージ。

 俺の賃貸1DKボロアパートの部屋が『石の中』に設定されてしまった……から。

 そう、『石の中』に設定されたのは()()()()()()なんだ。


 異世界人のリアさんは俺の部屋の中だけしか存在出来ないか、干渉出来ないんじゃないだろうか。

 だから、俺の部屋の外は認識出来ない……と考えるのが妥当だろう。


 ……うん、やっぱり俺って今の状況に慣れてきてるな。

 やっぱり、こんな不思議な状況には、ゲームや漫画での予習が役に立つね!


 って……、え~~! これってそう言うこと? なんか残念すぎるんだけど。

 折角リアさんと買い物デート出来るかと思ったのに!


「え~と、実はここには窓があるんですよ。これ額縁じゃなくて窓なんですよ」


「窓? えっと、タモツ様の世界と同じ意味なのか分かりませんけど、窓って(かまち)にガラス嵌めた小さい扉っていう意味ですよね? ただの木の板の場合もありますけど」


 (かまち)の意味が分からないけど、多分サッシの事を言っているのだろう。

 一応リアさんお世界でも窓は同じ物を指すので間違いないようだ。


「えぇ、それで合っています。そして俺の目にはガラスの窓が見えていて、その向こうは外の景色です。ガラス部分も見えなくなっているんですか?」


 俺はガラス部分を軽く叩いてみる。

 するとガシャンガシャンと窓が揺れる。

 俺が触る限りは問題無いようだ。


「あっ、音は聞こえます。本当にガラスの窓があるんですね。どうなってるんでしょうか?」


「それなんですが、もしかしてさっき俺が台所に走っていた時も黒い壁に向かって何しているんだ? と思ってました?」


「はい、あそこですよね。黒い壁に向かって何かをされていたようですが、その時は地獄ではこう言う事が普通な場所なのかと思っていまして……」


 あぁ、そう言えば丁度俺の部屋を地獄と勘違いした時だったんだっけ?

 確かに地獄なら、突然闇に向かってガッシャンガッシャンしても、そう言うものかと納得してしまうかも知れない……って、そうかぁ?


 俺が言うのも何だけど、リアさんも結構適応能力高いよな。

 まぁパニックになられても困るから助かるけどさ。

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