表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/101

作業部屋

悪竜討伐の出発まで残り4日。

シルヴィアの能力を知っていて理解ある協力者のデイビット=セクトの店に朝一で向かったシルヴィアは、魔法石の注文を済ませるとすぐに男爵家へと戻ってきた。

「お嬢様。公爵家から荷物が届いています」

「すべて魔石でしょうから、私の作業部屋に運んでおいて」

「わかりました」

エリンが大事そうに持って来た箱を自分の作業部屋に運んでもらい、シルヴィアは一度自室に戻ると着替えを済ませた。

これから魔石を魔法石にするための作業をすることになる。出かける時のようなきっちりとした服よりはもっとラフで動きやすい服に着替えるのだ。余計な装飾もなくて、平民が着ているような質素な服が用意されていた。シルヴィアがこの後作業をすることを理解してエリンが準備してくれていたのだ。

髪はうなじで一つに束ねて邪魔にならないようにする。

これが男爵令嬢なのかと誰もが疑ってしまいそうな格好になったが、家族も使用人もシルヴィアのことを理解しているので、誰も指摘することはない。

「さて、始めましょう」

のんびりしている時間がもったいない。すぐに作業部屋へと向かうと、なぜか部屋の前にアリアがいた。

「お母様?」

「これから魔法石を作るのでしょう。集中したら寝食を忘れてしまうから、それだけが心配で」

そう言ってバスケットを渡してきた。

中には軽食のサンドイッチが詰め込まれている。ピクニックに行くわけではないけれど、シルヴィアが作業を始めると部屋から出てくるのがいつになるのかわからないため、いつでも食事ができるように準備してくれていた。

「ありがとう」

「無理だけはしないようにね」

悪竜討伐にアレックスが参加するのだから、できるだけのことはしたいと思っていたシルヴィアだが、彼女自身を心配してくれる家族がいることも忘れてはいけないと思った。

「大丈夫よ」

笑顔で言ってみたけれど、アリアは信用できないのか眉根を寄せていた。

それでもシルヴィアを止めるようなことはしない。

バスケットを抱えて部屋に入ると、公爵家から送られてきた魔石の箱をエリンが机の上に置いているところだった。

机に置かれた箱の中身を確認すると、透き通るような美しい石が5つ入っている。どれも手のひらに乗るサイズで反対側を見通すことができる。石から感じる魔力も繊細で見た目のように好き通っているのが感じられて、純度の高い魔石であることは間違いなかった。

これほどの魔石を5つも用意するには相当な金額が必要になるはずだ。希少性も高いし、すぐに集めることはできない。きっと公爵家に保存されていたのだろう。

悪竜討伐にアレックスが行くことで、出し惜しみをしなかったことが窺えた。

「後4日で全部魔法石に作り替えるんですか?」

エリンが手に持っている魔石を眺めながら首を傾げた。

「これほどの魔石を用意したからには、高度な魔法石を期待していると考えていいでしょうね。そうなると4日で1つ作れるかわからないものよ」

強力な高位魔法を封じ込めた魔法石を作るためには高い魔力と技術力が必要になる。それに体力と精神力だって相当削られる。1つ作るのに数か月かかることだって当たり前だ。

それを4日で作ろうとしているのだから、周りが知ったら無謀だと言われてもおかしくない。

だが、シルヴィアは魔石を机に置くと、すぐに近くに積み重ねておいた本を数冊手に取ってぱらぱらとめくった。

それぞれ違う内容が書かれているページを開いて魔石の周囲に広げておいていく。

「いくつ作れるかは4日後になってみないとわからないけれど、やり遂げてみせるわ」

椅子に座って手元に先端の太さがそれぞれ違う数種類のペンを用意した。

これで魔石に魔方陣を刻み込んでいく。

先端に魔力を集中させて、紙に字を書くように刻んでいくのだ。

「ご武運を」

そう言ってエリンが部屋を出て行く。

ここからは戦いなのだ。時間に魔力に集中力。体力も必要になる。魔石を思い描いた魔法石に変化させる戦い。失敗すればせっかくの魔石が使い物にならなくなったり、いざ使おうとした時に必要な魔法が発動しないこともある。ここからがシルヴィアの腕の見せ所なのだ。

「はじめましょうか」

誰に言ったわけでもなく、シルヴィアは口元に笑みを浮かべると、開いている本を一度見てから頭の中に作りたい魔方陣を思い描いた。それをそのまま魔石に刻み込むことになる。

魔法師としては失格だと言われる程魔力操作ができないのに、魔法石を作るための魔力操作に関してはシルヴィアは天才的な力を発揮できる人間だった。

シルヴィアが最強の魔法石を作ったのなら、それを越えられる魔法石は他にない。それほどまでの腕前の彼女がペンを手に取って魔石に意識を集中させる。

ゆっくりと魔石にペン先を当てると、石の表面を通り過ぎて中にペン先が入り込む。石の中の魔力を乱すことなく、自分の魔力と混ぜながら魔石の中に魔方陣を刻み始めた。

寝食など忘れるほど、その後魔法石職人シルヴィア=へイネスは力を振るうのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ