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手紙

「お嬢様に手紙が届いていますよ」

その日は朝早くにエリンが1通の手紙を持ってきてくれた。

薄い水色の封筒に押されている封蝋はうさぎだ。

可愛らしい封筒は見ただけで誰からなのかわかりやすい。

「ミッチルさんからね」

月に1度は英雄魔法師のミッチル=アロエンから手紙が来る。

悪竜討伐に駆り出され、アレックスと一緒に討伐を成功させたミッチルは英雄という称号を得ている。彼女とはアレックスを通して知り合ったが、シルヴィアの能力をすぐに見抜いた人だった。

その後、王妃の呪いを解くため協力してもらい、王都を離れてしまったシルヴィアはミッチルと月に1度の手紙のやり取りをするようになったのだ。

社交界にそれほど顔を出していないシルヴィアにとって数少ない友人の1人となってくれた。

「今回はどんなことが書かれているかしら?」

シルヴィアはリーンハルト領での出来事を書くことが多かった。初めてのことばかりで大変ではあるが誰かに報告できることが嬉しくもあった。

ミッチルも王都で起こったことを書いてくれるが、魔塔での出来事を描くこともある。

魔法は使えなくても魔方陣に関してはシルヴィアも理解できるため、魔方陣のことや魔法自体のことなど知識を隠すことなくミッチルは書いてくれていた。

シルヴィアもできるだけ魔方陣に関して返事をすることはある。ミッチルに教えてもらった魔方陣で魔法石を作った効果も書いてみたりする。

「・・・あら?」

今回はどんな魔方陣のことが書かれているのだろうと期待しながら手紙を読み始めたシルヴィアだったが、その内容はいつもと違っていた。

「どうしました?」

待機していたエリンも首を傾げる。

「ミッチルさん。仕事の依頼でリーンハルトの隣の領地に来ているみたいなの」

「そうなのですね」

「魔法師が出向く仕事だから、きっと魔法に関する依頼が入ったのね」

ミッチルは魔塔主候補と言われる実力の持ち主だ。そのため悪竜討伐のメンバーにも選ばれた。

そんな彼女が出向くからには、それなりの魔法関連の仕事が入ったのだろう。

アーベスト王国には古代魔法に関わる遺跡なども各地に眠っている。古代魔法は今の魔法とそれほど変わりのないものも多い。ただ魔方陣が簡略化されより少ない魔力で効率よく魔法を使えたり進化はしてきている。生活に役立つ魔法たちはより使い勝手を重視されて残ってきているが、中には呪いのような人の命に関わる魔法もあり、そういった部類は現代魔法では使用禁止となっていた。

現在扱われなくなって忘れ去られていく魔法もあるのだが、古代遺跡などから古代魔法の魔方陣が見つかったりすることがあるため、そのすべての処理が魔塔に依頼される。

「隣の領地といえば、カルディナ領ですか?」

リーンハルト領は3つの領地に隣接している。その中でエリンはカルディナ領をすぐに思い浮かべた。

「そうね。あそこは魔法に関して有名な領地だから」

シルヴィアが説明しなくてもすぐに思いつく領地であるほどカルディナ領は有名だった。

リーンハルトとは森を境に領地が分かれている。森の一部がリーンハルト領ではあるが、カルディナの領地側にいくつか遺跡が存在していた。他にも領地内の別の場所には古代魔法の痕跡が見つかっていて、カルディナと言えば魔法というイメージが付いてしまっていた。

だからといってカルディナに魔法師が多いというわけでもない。カルディナが抱えている魔法師だけで調査ができればいいのだろうが、そういう訳にはいかず、新しい発見があるたびに魔塔の魔法師たちが呼ばれるのだ。古代魔法に関しては魔塔が管理することが決まっているので、カルディナだけですべてをしていいわけでもない。

「調査が始まっているみたいだけど、しばらく滞在するみたいね。せっかく隣の領地にいるのだから会えないかって誘ってくれたみたい」

王都に行かなければ会うことはないと思っていたが、再会できるかもしれない。

「公子様に相談してみないといけませんね」

「そうね。会うとしてもミッチルさんは仕事で来ているわけだから、私が会いに行かないといけないと思うわ」

「そうなるとこちらに来てから初めての遠出になりますね」

アレックスに相談しなければシルヴィア1人で行くわけにもいかない。公爵夫妻にも報告しないといけないが、行くとなればアレックスと2人で行くことになるだろう。

出かけたいと話していたところへ、思ってもいなかった遠出の予感。

エリンは久しぶりに出かけられることを嬉しく思っているのか、相談もまだなのにウキウキしているのが伝わってくる。

アレックスは今日も仕事で屋敷に居なかった。帰ってきたら相談してみようと思うシルヴィアだ。

手紙の続きを読むため視線を落とすと、ミッチルからは他にもカルディナ領にはあと2人の魔法師が一緒であることも書かれていた。

その中の1人の名前にシルヴィアは驚くことになる。

「先生も一緒に来ているみたいね」

「先生とは、リッチ様ですか?」

シルヴィアが師と呼ぶのはただ1人。魔法師になれるか鑑定してもらった時、魔力量は多いが魔法を使うためのコントロールが皆無だと言われ、魔法師にはなれないと言われたシルヴィアに諦めることなく手を差し伸べた人だ。

せっかく有り余っている魔力を活用できないのはもったいないと考えた魔法師シールズ=リッチは、鑑定後も男爵家を訪れてシルヴィアにいろいろなことを教えて試してくれた。

魔法に関しては鑑定通りどうすることもできない状態ではあったが、その中で魔法石を作ることができることに気が付いてくれたのだ。

そこからシルヴィアはシールズから魔法石のことをさらに教えてもらい、彼を師と仰いでいる。

「先生とは年に1度だけしか手紙を送ることができないから、元気にしているようでよかったわ」

依頼を受けて調査をしているのなら元気に活躍しているのだろう。

シールズが魔法石のことを教えてくれたのは半年ほどだった。基礎を中心に魔方陣を描いていたが応用することで、より簡単に魔法を使える魔法石を作ったりすることも教えてくれた。

それ以降はシールズが教えるよりも先にシルヴィアはどんどん魔方陣の知識を吸収していって、シールズが教えることのない魔法まで魔法石で完成さてしまっていた。

これ以上教えることがないと判断したシールズは、あまり強い魔法石を作って誰かに知られたらどんなことになるのか真剣な顔でシルヴィアに諭すようになった。

男爵家としてもシルヴィアを守るように能力のことを隠していた。

何度も諭されることで幼かったシルヴィアも自分の力の脅威を理解できるようになり、理解が出来ていると判断するとシールズは男爵家に来なくなった。

あまり男爵家に通っていると魔塔から怪しまれてしまう。そのため年に1度の手紙のやり取りだけという取り決めをしていた。

春先の社交シーズンが始まる頃、領地から魔塔に手紙を送るのがシルヴィアの通例だった。

王都に到着すると見計らったようにシールズから返事が届くのだ。

今年はリーンハルトから手紙を書くことになると考えていたのだが、カルディナに出かけられるのであれば直接会うことができる。

手紙だけでやり取りしていたので、会えるのかと思うとシルヴィアも嬉しくなってしまった。

まずはアレックスに聞いてみないことには始まらない。

彼が帰ってくるのがこんない待ち遠しいと思ったのはリーンハルト領に来て初めてかもしれなかった。

それはそれでアレックスに申し訳ない気持ちになるシルヴィアだった。


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