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ハジメテ

 俺と綾は普通の住宅街を並んで歩く。俺の制服は藍錆色のブレザーに赤色のネクタイ、灰色のズボン。綾の制服は卯の花色のブラウスに薄花桜色のリボン、紺色のスカート。うぐいす色のブレザーもあるが、今日は着ていない。

どうやら、一年間しか着ないのに「成長期だから」と、大きめに買ったらしく、ぶかぶかで太って見えるから着たくないらしい。ちなみに綾の身長は百五十二センチ。


 まずは先に綾を中学校へ送り届けないといけないため、スマホで道を調べながら向かう。ちなみに、綾の中学校の名前は「五瀬川中学校」という。目に入る所に桜の木はないが、春の強風の影響で飛んできた桜の花びらが地面に散らばっていた。


 「綾の学校って結構近いんだな。」


 スマホの地図アプリには「自宅からおよそ500メートル先」と表示されていた。


 「んじゃあ、お兄ちゃんとあと七分くらい一緒にいれるんだね!」


 「まあ、そうだな。よく500メートルが七分くらいって分かったな。」


 「……あ!そーだ、お兄ちゃん!」


 綾が急に話を遮るように、大きな声で話してきた。


 「家族は見慣れてるけど、結構顔怖いから笑顔で教室入らないと友達できないよ!」


 そう、俺はここ数年間一人でいたため、感情を失った人間になってしまっていた。人間は、楽しんだり、怒ったり、悲しんだりすることで表情を変える。もちろん、ある程度の感情はあるが、心の底から喜怒哀楽を感じた事はない。…いや、もしかしたら一つの感情に全てが支配されているのかもしれない。


 「みんなそんなもんでしょ。見たくないものを見ないといけない時がしばらく続いた時は、顔が怖くなるもんだよ。」


 そう言った俺は、立ち止まって横を向き、綾の目の下のクマを指差した。


 「もうちょっとファンデーションで隠した方いいぞ。」


 綾は両眉を上げ、目を見開いて驚いた。


 「べっ、別に疲れてないし! そんな事言ったらお兄ちゃんだって目の下にクマあるじゃん!」


 「俺のこれはデフォルト。綾の目の下のクマは青っぽいから睡眠不足か疲労が溜まってる証拠だ。今日はお互い早めに終わるから帰ったら寝る事だな。」


 そう言われた綾は何故かとても嬉しそうな顔をした。数分後、五瀬川中学校の校門についた。


 「ついた〜!ここがこれから私の通う中学校!!」


 俺はあまりの校舎のデカさと綺麗さ、周辺環境の良さに驚愕した。


 「俺の中学と全然違う…。」


 「ねぇ、お兄ちゃん見て!綺麗な枝垂れ桜も咲いてるよ!」


 「ほぅうぐぁあっ…ぺっ!…ぺっ。」


 俺は綾が桜に夢中になってる隙に、校舎の入り口にある花壇に五百円玉と一円玉くらいの痰をふりしぼって吐いた。


 「んじゃ、俺は電車の時間もあるからそろそろ行くぞ。」


 「あっ…待って!」


 綾が俺を呼び止める。


 「送ってくれて、ありがとう!」


 八重歯が剥き出しになる程の笑顔でそう言った。


 「おう。また後でな。」


 二人の足元には沢山の桜の花びらが散っている。


 ---駅到着。 


 この駅は「電車」「地下鉄」「新幹線」が通っているため、かなり大きい駅だ。俺は切符を購入し、電車に乗った。席は全部埋まっていて、立ってる人もかなり多い。約三十分ほどで高校の最寄駅に着くらしい。


 「久しぶりに人がたくさんいる所に来たからすでにちょっと疲れたな。」


 俺は空いた席に座り、少しウトウトしていた。


 「眠い…。でも寝てしまったら…終わってしまうかもしれない。」


 次第に視界が狭まっていく。

 

 「……つっ…。」

 

 眠気を覚ますため、皮が剥がれるくらいの強めの力で口の中を噛んだ。しかし、そう簡単に睡魔ってやつはいなくなってくれない。


 「だめだ…くそっ…。もう……。」


 俺は睡魔に負けそうになった。


 「ツンツン」

 

 突然、目の前で立っていた人が自身の靴で俺の靴をつついてきた。


 「……んっ?…たまたまか?それとも足を伸ばしすぎたのかな。」


 俺は足をキュッと閉じた。また睡魔が襲う。


 「寝て…たまるか…。」


 また俺がウトウトしていると、さっき俺の足をつついてきた人が隣に座った。視界の端っこにスカートから出る綺麗な太ももが見えた。


 「ツンツン、ツンツン」


 今度は肘でつついてきた。

 

 「…はっ!」


 俺は目を覚ました。


 「ありがとうって言うべきか?…いや、たまたまかもしれないし、急に感謝するのも変だよな。…でも顔を見てどんな人なのか知りたいな。」


 俺はもうすぐ電車を降りるため、その時に顔をチラッと見る事にした。


 「ピンポン、ピンポン」


 到着の合図がした。


 俺は立ちあがろうとし、両足に力を入れた。


 すると、隣の女性も立ち上がった。


 「あれ?この人も?…しかも同じ制服だ。」


 身長170センチの俺より少し低い身長で、綺麗なサラサラとした黒髪が肩甲骨あたりまで伸びていた。そして、不思議とゼラニウムの香りがふわっと香った。顔を見てみたいのだが、背を向けていて中々見えない。


 「他の学生もいるし、急に走って顔を覗き込むのも変だよな。…仕方ない、雰囲気だけ覚えておこう。」


 俺は心の中で「ありがとう。」と、呟いた。改札を抜け、徒歩で学校を目指す。ちなみに俺の学校の名前は「志華葉高校」という。スマホで学校までの道を調べると「約1キロ先 徒歩約十五分」と記してあった。スマホに表示されたルート通り歩いていると、次第に川の音が聞こえてくる。


 「す、すっげぇ…。」


 俺は川沿いに咲く、無数の枝垂れ桜の桜並木に圧倒された。春の風で桜吹雪が起こり、川には花筏が流れている。

それを50メートルほどの長い橋の真ん中で眺める。


 「なんだ…。全然最高じゃんかよ。 あ、そうだ、これ写真撮って綾に見せてあげよう。」


 「カシャ」


 写真を撮り終え、その場を離れる事に寂しさを感じながら歩き始める。しばらくすると、車がたくさん行き交う大通りに出た。その通りにはコンビニ、スーパー、飲食店、少し離れた所には映画館もあるらしい。周辺環境は綾の学校の周りほど良くないが、悪くもなかった。

 

 「今日まじだるくなーい?本来ならクラス発表とかでウキウキで登校するのに、うちらはクラス替えないから、二時間授業受けた後、長めの集会で終わりって…まじ最悪ー。」


 「それなー。まじだるいわー。」


 「おひさ!うぇーーい。」


 「おいお前やめろって!危ないだろ!」


 学校の近くに来ると、俺の周りにいるたくさんの学生の会話が耳に入ってくる。どうやら新学期初日なのに普通に授業をやるらしい。

 

 「そろそろ校門か。」


 校門の近くの地面に桜の花びらが散っている事から、学校の校内にも幾つかの桜の木があることが分かる。


 「おはよーう!」


 「はーい、おはよ。」


 校門の近くに来ると沢山の先生が立っていて、生徒たちと挨拶を交わしている。


 「おぉ。こっちの校舎もそれなりにでかいな。ってか校庭広すぎだろ。」

 

 俺は少しワクワクした。


 「まずは、職員室に行って色々聞かないとな。」


 俺は校内図で職員室の位置を把握し、向かった。


 「コンコン」


 「失礼します。転校生の古賀大河で…」


 「待ってたよ!!古賀くん!」


 俺の顔の目の前には、女性教師の顔があった。


 「わっ!!」


 心霊系は全然平気な俺も、流石にびっくりした。

 

 「脅かしてごめんよ〜?君のクラスの二年二組担任の佐々木慧だ。これからよろしくね。」


 「はい、よ、よろしくお願いします。」


 俺は誰かと話してる時は必ずその人の目を見て話すようにしてるが、それでも分かるほどのナイスボディだった。身長は俺とほぼ同じで、黒髪の肩上ボブだった。


 「んじゃ、一緒にクラス行こっか!」


 慧先生と一緒に教室へ向かう。


 「それにしても、俺はこの人をどこかで見たことがある気がする…。」


 俺は先生のナイスボディを後ろから見ながら思い出そうとする。


 「……あ!中学の時の先生か!」


 俺は中学の時の揶揄うようにちょっかいかけてくる担任のエロい女性教師を思い出した。そして同時に怒るとこの世のものとは思えないほど怖かったのも思い出した。


 「よし、着いた!んじゃ私はまずホームルームやってくるから、名前呼んだら入ってきてね。」

 

 待ってる間、誰もいない廊下では「ピーッ」っと耳鳴りがしていた。


 「…え?転校生?まじ?!」


 「どんな人なんだろ!」


 クラスがざわつき始め、俺は気を引き締めるように、制服についた埃を手で払った。


 「それでは、転校生の古賀大河君でーす!」


 慧先生の合図と共に教室に入る。


 「失礼しまーす。」 


 俺は粋がる事もなく、ただ普通に言葉を発した。


 「おぉー。」


 クラスの全員は百点中五十点のような微妙な反応をした。


 「顔はそこそこかっこいいとは思うんだけど、こんな生気のない顔してたらそりゃそうなるよな。」


 そう思いながら黒板の前まで歩く。


 「はい、んじゃ古賀君、自己紹介お願いね!」


 「転校生の古賀大河です。これからよろしくお願いします。」


 俺は綺麗なお辞儀をしながらそう言った。


 「好きな食べ物は?趣味は?好きな女性の好みは?」


 「へ?」


 慧先生がニコニコしながら揶揄うように質問してくる。


 「そうだった。こういう人だった…。登校初日でクラス全員の前で女性のタイプ聞く人がいるかよ…。」


 俺はそう思いつつ、呆れながら口を開く。


 「好きな食べ物は生チョコです。趣味は絵を描く事と格闘技です。好きな女性のタイプは…好きになった人がタイプなので、ないです。」


 「おぉー。」


 またしても微妙な反応をされた。


 クラスを見渡すと、どうやら新学期という事もあり、男女別の出席番号で席が整えられてる事に気づいた。俺から見た左半分の廊下側が男子、右半分の窓側が女子だった。しかし、いくら男子側を見ても空席がない。


 「…え?どういう事?」


 何故か女子側の一番後ろの所に空席があった。


 「…まさかっ!」


 俺は慧先生の方を見る。


 「一つの空席が女子側の一番後ろにあったんだけど、わざわざ移動させるのも面倒だからそこに座って!」


 慧先生は両肘を教卓につけ、手に顔を乗せ、ものすごい笑みを浮かべながらそう言った。

 

 「はぁ…。」


 俺はまたしても呆れながら席に向かう。


 「すいません…あっ、すいません。」


 席と席の間にある、生徒の荷物を避けながら自分の席に向かう。一番端っこの一番後ろの席だった事もあり、周りの生徒は右隣か前しかいない。隣の生徒は紫系の髪色のポニーテールで、背中の真ん中ら辺まで伸びていた。少し吊り目で目が大きく、いかにも気が強そうな雰囲気があった。前の席の生徒は隣の生徒とは真逆で天真爛漫そうな人だ。薄いピンク色のボブヘアーで、小顔だった。


 「あっちゃー。次の現代文の教科書、隣のクラスの人に貸したままだぁー。」


 前の席の生徒が独り言を放ち、席を外した。チャイムが鳴り、現代文の先生が入ってきた。


 「それじゃー、授業はじめ…」


 「はぁ、はぁ、すいません!遅れましたぁー。」


 俺の前の席の人が息を切らしながら教室に戻ってきた。


 「またお前か、萌。もう二年になったんだからしっかりしなさい。」


 「はぁーい。ごめんなさーい。」


 どうやら一年の時からこんな感じだったらしい。


 ---三十分後。


 この怖い顔の影響か、特に誰からも話しかけられる事もなく、時間が過ぎている。それに、クラスを見渡すと授業中でも分かるくらい、はっきりとした各グループがあった。


 「こりゃ、難しそうだ。」


 俺は窓の外にある青い空と高層雲をただぼーっと眺めていた。


 「よーし、んじゃ、隣の人とこの四十五ページから四十七ページまで一文ずつ読みあってー。」


 先生が生徒達に命令する。


「出たよ。謎の読み合いっこ。」


 俺はそう思いつつも隣を向く。


 「んじゃ僕から先に読むんで…あ、ごめんなさい、名前聞いてもいいですか?」


 「私?堀楓。」


 すでに少し怖い。


 「ん、んじゃ堀さんは僕の次の文を呼んでください。」


 二人で読み進め、最後の文に差し掛かった。


 「最後の文を読むのは堀さんか。読み終わったらありがとうございましたって言うか。」


 俺はそう思いつつ、自分が読む最後の文を読み終えた。


 「ねぇ、あんた意外と普通に喋れんじゃん。」


 堀さんが急に口を開いた。


 「え?あ、まあそうなんですよ。意外ですよね…。」


 「なんで同級生なのに敬語なの?」


 堀さんは単刀直入に聞いてくる。


 「いや、僕、同級生でも下級生でも初対面は敬語って決めてるんです。」


 「なんで?」


 堀さんは切り返して聞いてくる。


 「…まぁいいや。でも、その様子だと普段は自分の事、僕じゃなくて俺って言ってんでしょ?別にそんな畏まらなくていいよ。」


 堀さんはそう言って前を向いた。俺も堀さんに倣って前を向く。


 ---数十分後、一時間目終了のチャイムが鳴った。


 「ねぇ、あんた、この学校の事知らないでしょ。各教室の位置とか教えてあげるから着いてきて。」

 

 堀さんが立ち上がりながら俺に話しかけてきた。座ってる所しか見てなかったが、立ってる堀さんをこうして見ると身長は百六十センチ過ぎくらいだと分かった。


 「え?本当ですか?ありがとうございます!…でも僕、さっき校内図を…」


 「ドガッ!」


 「いっ……!」


 俺の右足の脛に強い痛みが走った。どうやら脛を蹴られたらしい。


 「さっき言ったよね?僕じゃなくていいよって。敬語はまだ話し始めたばっかだからいいけど、今度からは僕じゃなくて俺にして。」


 そう言った堀さんは、長い髪をフワッとさせながら後ろを向き、教室の出口に向かった。その瞬間、金木犀のいい香りがした。


 「孤独人は目を瞑ると逢える君に良い悪戯をしたい」を読んでいただき、ありがとうございます。


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 皆様の評価を参考にさせていただき、より良くしていきます!

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