イヤナヨカン
「えっ、ちょっと待って。 嘘だろ? …あ! 台キープのボタン押してない!!」
その瞬間、足から上半身にかけて大きな舌で舐められたような感じがした。
「やばい!」
その嫌な予感は的中。 いや、それを上回った。
「すいませーん。 この台、初期位置に戻してもらえますか?」
「あ、はーい! 少々お待ちくださいねー。」
「?!?!?!」
俺はそのシーンが一瞬目に入った瞬間、目を逸らし、どこか遠くを見つめていた。
「うわ、やらかした…。 前も台キープ押すの忘れて台取られて後悔してたのに。 何やってんだ俺は…。 っていうか初期位置に戻さなくてもいいだろ…。」
そう、俺は元の世界で一度同じ事を経験している。 この時の後悔には、また初めからという虚しさも伴う。
「はぁ…。 仕方ない、買い物にでも…」
「あんたって馬鹿だね。」
聞いた事のある声が斜め後ろから聞こえた。 それもつい最近聞き始めた新鮮な声。
「って…堀さん!? なんでここに??」
振り返るとそこには、上下スウェット姿の堀さんの姿があった。
「なんでって、普通に買い物よ。 私たちの降りる駅、そんなに離れてないでしょ。 ここにある大型スーパー結構安いからよく来てるのよ。」
どうやら、このショッピングモールは俺の家と堀さんの家の丁度中間辺りにあるらしい。
「あ、そうなんですね…。 …っていうか! 初期位置に戻さなくてもいいじゃないですか! もう少しで取れそうだったのに!」
俺は焦り続けている心臓と一緒に、堀さんに怒った。
「無理無理、そんだけ時間かけて取れないなら無理。 いくらUFOキャッチャー得意でも取れない時は取れないの。」
「そんなの分からないじゃないですか!」
「ってか、さっきから美少女キャラの台ばっか見てたし、そしてそれを死に物狂いで取ろうとしてるし。 変態じゃん。」
「え、そこから見てたんですか?! …はずっ。」
そんな前から見られてた驚きよりも、恥ずかしさが勝った。
「…っていうか、そっちもストーカーみたいな事してて変態じゃないですか。」
「酷い言い方だなー。 偵察ってやつよ。て・い・さ・つ。」
「じゃあ僕、敵じゃないですか。 ひどーい。」
「いいから買い物行こ。」
俺と堀さんは下の階にある、大型スーパーに向かった。
「孤独人は目を瞑ると逢える君に良い悪戯をしたい」を読んでいただき、ありがとうございます。
第二十話は、お互いの想いを伝えます。
次の話が掲載され次第、もしよかったら読んでみてください。