スコシアタタカイ
「だから正直、…どうする事もできなくて困ってる。」
葵君は食べていたホワイトチョコドーナツを最後の一口分残し、食べるのをやめた。
「…………。よし! 良い事を教えてあげよう!」
俺は椅子から立ち上がり、両手を広げ、天を仰ぎながら大きく息を吸った。
「…お兄さん、何やってるの?」
「悲しい事を言うけど、これから先、生きる上で自分の力ではどうにもできない事が沢山ある。その時はね…。」
俺は右手と右足を前に出し、少し腰を落とした。
「クソみたいな世界に、ファイティングポーズだ!!!」
「……。」
肺に溜まっていた沢山の空気を一気に使い、外に出した大きな声が、フードコート全体に響き渡り、静まり返る。
「…ふぁいてぃん…ぐ……ぽーず?」
葵君が目を大きく開きながら不思議そうな顔をこちらに向けている。
「そうそう! いつも俺はこうやって「負けてたまるか!」「やってやるよ!」って自分を奮い立たせるんだ!」
「ふるい…たたせる…?」
「うん! だって、自分を取り巻く、他人が産んだ環境によって自分自身を押し殺す事になるなんてクソムカつかない? …でも、その環境にいないといけない時が必ずあるんだ。 だからこそ「俺は押し潰されないぞ!」って意思表示のファイティングポーズ!」
「……。」
葵君は口を閉じ、下を向きながらプルプルし始めた。
「……っ…ぷっ…あははははは!」
葵君は地面に落ちて弾け飛ぶ水滴のように、何かを弾け飛ばした。
「やっぱお兄さん面白いね! バッカみたい! 俺、そろそろ行かないと。」
最後の一口を残したドーナツを口に運び、葵君は椅子から立ち上がった。
「ドーナツ、ご馳走様。 俺、この時間帯いつもこのショッピングモールいるからさ、暇な時来てよ。 んじゃ!」
葵君は温かくなった心を冷やさぬよう、走り去った。
「おう! また会いに行くね!」
俺もその姿を見て、心が温かくなった。
「さて、この大量のドーナツはどうしようか…。 あ! 確か綾も甘いもの好きだったはずだから、綾にあげるか!」
一瞬、どこからかチクッとした冷たい視線を感じたが、無視しておこう。
そして俺は買い物をしに向かう。
「孤独人は目を瞑ると逢える君に良い悪戯をしたい」を読んでいただき、ありがとうございます。
色々と忙しく、再度、最新話を投稿出来ずにいました…
大変申し訳ありません…
第十八話は、この世界で初めての娯楽を楽しみ?ます。
次の話が掲載され次第、もしよければ読んでみてください。