ウチアケ
ーーーフードコート到着
「葵君、何か食べたい物ある? あるんだったら買ってくるよ。」
「いいの? んじゃ、ドーナツ食べたい。」
「分かった。好きな所に座って待っててね。」
そう言い、俺はフードコート内にあるドーナツ屋さんに向かった。
「チョコ、ホワイトチョコ、イチゴチョコ、抹茶チョコ… チョコだけでこんなに種類あるのか。」
ショーケースの中には沢山の種類のドーナツが並んでいた。
「まぁ、余ったら持ち帰ればいいしね!」
甘党の俺は全種類のドーナツを購入し、葵君の所に向かった。
「お待たせ!」
「げ! 何そのドーナツの量。」
葵君は俺の顔とドーナツを、目を大きく開きながら交互に何度も見た。
「全部美味しそうでさ、余ったら持ち帰ればいいかなぁ〜って!」
「バカじゃん。ただの。」
葵君の表情から、軽蔑と似た意味合いが感じ取れた。
「まぁまぁ、で、何が合ったのか聞かせもらっても大丈夫?」
「…うん。」
葵君の表情が、遮光カーテンに閉ざされた部屋の様に薄暗くなる。
「俺さ、沢山習い事させられてるんだよね。親に。 今から塾に行った後、音楽教室にも行かないといけない。 他にも幾つか習い事させられてて、好きな事やる時間が無いんだ。」
「なるほどね。だからそんな大荷物だったんだ。」
「家族みんな優秀でさ、お父さんは医者。お母さんは大手企業勤務。高校生のお姉ちゃんも学年一位。お爺ちゃん、お婆ちゃんも医者。だから「葵にも出来るだろう。」「「勉強」しなさい。」って。」
葵君の表情は更に暗くなる。
「それは大変だ…。 その様子だと、お姉ちゃんも嫌々勉強してる感じなの?」
「いや、お姉ちゃんは逆に勉強しかやる事がないから常に勉強してる。」
「あ、そうなんだ。 因みに、葵君は何年生?」
「俺は今小学三年生。…ドーナツ一つ、頂きます。」
葵君はヒンヤリと暗い表情のまま、ホワイトチョコが乗っかったドーナツに手を伸ばす。
「うん! どうぞ、食べて食べて! …そっか、小学三年生かー。 放課後は友達と遊びたいもんね。」
「…遊びたいけど、…親にも逆らえないし。……家出したとしてもすぐ見つかって戻されるだろうし。」
葵君はドーナツを頬張りながらモゴモゴと喋る。
「孤独人は目を瞑ると逢える君に良い悪戯をしたい」を読んでいただき、ありがとうございます。
仕事等で忙しく、中々最新話を投稿出来ずにいました…
大変申し訳ありません…
これからは通常通り更新できそうです!
第十七話は、葵君の心情に少し変化があります。
次の話が掲載され次第、もしよければ読んでみてください。